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蠱毒
サビ臭い牢をぶっ壊した。そんなに硬くない鉄。脆い檻。錆びれた鎖。壊すのは簡単だ。その、柔な拘束に腹が立つ。まるで、この中にいるモノは決して自ら出て行く気など無い、そんな牙すら折ってやった、というように。
いくつもある牢には目を凝らすと腐ったような肉が見える。
漂う死臭に、喉の奥がカァーッと熱くなる。くそ、くそ、クソ。クソやろう。
ーーーここはもう早く潰そう。存在してはならない。そう強く思う。
細く小さい彼を背負って地下から出るために階段を登る。彼の首や手首、足首には先程までついていて鎖の跡がひどい。擦れたように赤い皮膚。錆びていた鎖のせいで余計に肌がかぶれていた。
この子に人を殺させていたのか。
この小さな背中に、大人が寄ってたかって「自分を助けてくれ」と祈ったのか。
この小さな背中で、君は………
どれ程の物を"彼ら"に背負わせていたんだ。
助けに来るのが遅くてごめん。
牢の中にある沢山の亡骸に、懺悔する。
今は目の前のモノを見なくてはならない。目を逸らしてはならない。
少し深呼吸をして、無線で通達をする。
『こちらシキ、地下にて子供を発見。救出をした。今から地上に向かう。
……多分、ここでたくさんの子供が亡くなっている。』
俺の予想でしかないが、人間で『蠱毒 』を作ろうとしたのかもしれない。
蠱毒とは、古代中国で使用された呪術のひとつであり、動物や虫たちをある一定の場所に閉じ込め、最後の一匹になるまで、共食いをさせるのだ。
そうしてできた呪いが『蠱毒』である。
長い長い上り階段を駆け上がる。早く、早くと競るように。それなのに、なのに。
「扉が、無い。」
***
僕は、ずーっと前にパパとママにここに連れてこられた。
パパとママは僕のことを「バケモノ」と呼ぶ。
ぼくの名前はほかにあったはずなのに、もう忘れちゃった。
ある日パパとママは僕に「今日からここで暮らすのよ」と言って、ここに連れてきてどこかへ行ってしまった。
そして、ここでの生活がはじまった。
僕の周りには僕と同じように、「普通の人」には見えない何かが見える子や、不思議なチカラが使える子がたくさんいたんだ。
ぼくたちはオトナに言われるがままに、刃物の扱い方とか、ぼくたちのチカラの使い方を教わった。
その中でもオトナ達から『x』と呼ばれる二歳年上の僕の親友は飛び抜けてチカラを持っていたんだ。
いつもxとオトナ達はどこかにおでかけして、その度にxは、血まみれで返ってくる。
ある日、いつものようにxはオトナ達と出かけて行ったけど、その日僕の親友は帰ってこなかった。
次第にオトナ達は、食べ物をくれなくなったしまった。
しょうがなく、僕は、友達の肉を食べる。
その日を境にオトナ達は僕を『x』と呼ぶ。
僕の周りの子供たちはどんどん腐っていく。
あぁ、ぼくは、『x』は、キュウセイシュなんかじゃない。ただのーーー
ーーヒトゴロシだ。
***
「扉が、ない。」
壁に手を当ててもなにも起こらない。…………閉じ込められた?
どうする。
後ろにある暖かさを感じ、いや、どうする、じゃない。どうにかしなくてはならないんだ。
「おにいちゃん、下にオトナがいる。」
「オトナ?」
「いつも、ぼくが外にでるときは、下に降りる」
「わかった。」
下に、下に奴らがいるのか。
「こちらシキ。地下に閉じ込められた。さらに地下に奴らがの本拠点がある模様。そちらに向かう。」
『了解、エルも俺も無事だ。今からそちらに向かう。』
閉じ込められても無線が問題なく使えるのは、ニイロさんのお陰でもある。異常がないように常に見張りがいるのは心強い。
アンさんからの無線だ。あぁ、良かった。
『シキ!俺達も仕事は終わった!俺達もそちらに向かう!』
レイスか、良かった。隠密班にアオがいることを思い出し、なんとなく不安になってしまう。
何故だ、なんで、アオなら強いから大丈夫なはずなのに。不安になってしまうんだ。
いや、今はーー
「待機班、突入」
『了解』
行かなければならないだろう。
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