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腹の探り合いは胃が痛い
「君たちが、シノのお友達かい?」
紳士的で柔和な笑みを浮かべる男性が引き連れてきた使用人だろう人に、自身の上着を渡す。
「ここには、来ないかと思いました。」
シノの、その冷たい声にこの部屋一帯が一気に凍る。
………この人物は、シノのお父さん…?
「シノが学園のお友達と帰ってきていると聞いたからね、さあシノ。お前の友達を私に紹介してくれないか」
シノは少し戸惑ったように俺に視線を向けた。…その目が助けを求めているような気がして、俺はその目を強く見つめ返した。この男の人がどういう人間か俺にはわからないし、どうすればいいのかまったくもってわからないが、その目を離してはいけない気がした。
「…お初にお目にかかります、私、シキと申します。」
俺が言葉を発すると、男の探るような、見定めるような視線が俺を貫く。
「ほう、君は苗字を持たないのだね。失礼だが、君は学園内でなにか良い成績を修めていたりするのかい?」
「父さん!!」
シノの批判するような低い叫びに、父さん、と呼ばれた男は何食わぬ顔ですぐそばのソファにゆったりと腰掛ける。
シビュラでは、一般庶民は苗字を持つことが少ない。たったそれだけで差別をしてくる王族や貴族がいるとは聞いていたが、今まさにその状況に陥っていた。
…意図して苗字を名乗らなかったわけではなかったのだが。
自身と同じ王族や貴族を嫌う気があるノアは顔が般若になっている。自分が睨まれている訳でもないのに、恐怖を感じる。美人に睨まれたくなんてないな。
「成績、ですか。特に大したことはしていないですが、」
「ほう…」
「父さんっ…!!シキは俺より学科試験は上だ!、だから、変な邪推をしないでくれ!」
シノのその必死な物言いに俺は一つの覚悟をする。
「ですが、
この先貴方様からの大切な依頼をお預かりすることになるでしょう。」
俺は、シノと男の空間を切り裂くように、言葉を続けた。
その一言に男の表情が、がらりと変わり、色の無い冷たい視線へとなる。これが、この人の仕事の顔なのか、はたまた、素、なのか。
「オウシュウ家と敵対している王族主催のパーティーに近頃参加するそうですね。しかし、貴方はオウシュウ家側だと公言しているはず。…大変大きな賭けだ」
「君のような子供にはわからないよ。」
俺は、この夏休みただただ公務をこなしていただけではない。
「貴方は、今回の主催である男の不正を知っている。今回のパーティーでそれを暴きたいのでしょう?」
男は「…ほう?」と興味深そうに、頷く。いいぞ、釣られちまえ。
「そんな危険なパーティーに、護衛も無く行くわけがない。
そして、貴方はその護衛に第七師団三番隊を指名した、そうでしょう?」
「あぁ、トーカ団長には大変渋られたけどね、」
この先俺が話す内容を察したのか、シノの「言うな」というオーラがすごい。だが、これがお前に対する俺の誠意だ。
「そうでしょうね、…エレクアント氏、よろしくお願いしますね?」
「…なるほど」と一言言った男は、実に面白そうににやり、と笑う。
「君に免じて今日はもう撤収しようかな」
嵐のように去っていった男は、俺達の楽しい夏休みを壊していった。
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