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ちょっと違う話
隊長とノアを置いて、シノと晩飯の材料の調達に、別荘から少し離れた街まで来た。なぜ二人で来たのかと問われても俺は「わからない」と戸惑いたっぷりに答えるだろう。実際本当にわからないのだ。
俺より少し半歩先を歩くコイツのクリーム色の柔らかそうな髪が、夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。シノの別荘を出る前に、当然のように隊長とノアも付いて来ようとしたが、シノが「二人は待ってて、荷物重いだろうし」というセリフに二人は不満そうに頷いた。
特にノアは女の子扱いされるのが本当に嫌らしいので、ムスーっとしていたが、隊長が「ノア、力仕事はコイツらに任せようぜ」と言って丸め込んでいた。俺が護衛についてから本当に見た目とは正反対な性格を持ち合わせるノアをよくもここまで手懐けた隊長というのは尊敬に値する。いや、元々してるんだけど。
コイツとは、俺が以前入院していた時にひと悶着(?)あったのだ。
と、言うのも俺が病室で腕だけで筋トレをしていた時に奴は見舞いに来やがった。本音を言えば見舞いに来てくれることは嬉しいのだが、少なくとも隊長と一緒に来るとんだと思っていた。
そう、シノは一人で来たのだ。
俺のベッドまで近づいてくると、「どこを怪我したんだ」と、いつも浮かべる柔和な笑みを引っ込めて真顔で尋ねてきた。
それこそ、さっきコイツの親父さんに向けたすべてを凍りつくす表情と同じものだった。
シノには悪いが、血は争えないというやつである。
俺が少しビビって「…腹」と答えれば、奴は備え付けの椅子に腰をかけ、静かに「そう」とだけ答えたのだ。
俺が胸のところまで被っていたシーツに、シノが手を入れてくる。何をされるのかわからず、俺がギョッとした目でシノを見ると、シノが少し泣きそうな目をしていたのは俺の気のせいだっただろうか。
シノは俺が怪我をしたところに手を這わせると「痛い?」なんて聞いてきた。
…………ばーか、なんでてめぇが痛そうなんだよ。
多分、そん時俺は「別に」とかなんとか返した気がする。
***
「クロ、聞いてる?」
どっぷり浸かった思考から意識を起こすと思いの外、コイツのお綺麗な顔が近いことに思いっきり4、5歩下がってしまう。
「…………いや、」
「だーから、今日の夕飯なに食べたい?」
あの病院での出来事を俺は特に誰かに相談するつもりもない。そもそも何もないんだ。相談もクソもねえ。
ただ、ちょっと腹触られただけだし。コイツが勝手に辛そうな目ェしてただけっつうんに…。
何故俺がこんなにもコイツに惑わされなきゃならねんだ。
……さっき、コイツと親父さんは何かあったのか…?俺はもう両親共に戦争で死んじまってるから、よくわからないが。
あの時の隊長は格好良かった。
本当はわざわざ言わなくていいこともあったはずだが、隊長のことだ。何か考えがあるんだろう。
でも、今回は隊長がいたから丸く収めることが出来た。あの時、俺だったら……?ただの軍人。ただの学園の生徒。俺が持ってるモンなんてそれだけだ。
俺はコイツのとなりに……………、?隣?………今考えたことナシにしよう。
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