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暴君のお出まし
朝は案外静かで布団をぐい、と引っ張る。ああ、そうか、シノの別荘に来ていたんだっけ。そう思ってのっそりとベッドから起き上がる。そういえば、みんな同じ寝室に寝ていたのに、みんなこの部屋にいないということは俺がビリなのか。
窓の方を見れば、既に太陽は高い位置まで昇っており、もう昼間であることがわかる。…せっかくの皆との休みを無駄に過ごしてしまったようで、罪悪感が募る。
俺は後頭部をがしがしと掻きながら、扉をがちゃりと開け己の目に飛び込んできた光景に一度扉を閉めた。
…は?
しばらく俺が扉の前でフリーズしていると、反対側からドアが引かれてしまい俺はつんのめってしまう。ボスッとなにかに受けてもらい、そのなにかの正体に瞬時に気付いてしまった。…このどこか懐かしいロウバイの香り。
俺は、恐る恐る顔を上げると、そこには恐ろしいほどに美しく笑うトーカががっしりと俺の肩を抑えている。
「と、トーカ…なんでここに…」
トーカ越しに見えるシノたちは引きつっているもののこちらを心配そうに見つめているのがよくわかる。この感じだと、トーカが来たのはつい先ほどということか。
これはみんなには、申し訳ないことをしたなあ…
「よお?随分とお寝坊さんのようだな?」
ドスを効かせたその声に冷や汗が止まらない。
「は、ハハ…、い、やぁ……団長、か、肩、痛いっス…」
「情けねェな?シキ?」
「イダダダダダダダダダダ痛い痛い!!団長!痛いです!!パワハラですか!」
くっそ野郎!!この馬鹿力!!暴君!!俺様!!目の前のこの顔だけ男を頭の中で罵る。すると、この金髪暴君は俺をひょい、と荷物のように持ち上げられ、出口の方に向かう。
俺は腹に肩が食い込んでその痛みに耐えながらも抵抗するために暴れた。
「どこに連れて行く気ですか!降ろしてください!」
「うるせえ、帰る」
「は、はあっ!?この、暴君!!俺様!!強姦魔!」
勢い余って先ほどまで頭の中で並べられていた暴言を口にすると、トーカはピタリと足を止めた。
「俺を本物の強姦魔にしたいなら、今、ここで、シてやってもいいが?」
なんて恐ろしいことを言うんだ、コイツは…。俺からはトーカの顔を拝むことはできないがその声音から相当お怒りなのがよくわかる。
「え、遠慮します…」
俺が暴れるのをやめると「最初から大人しくしてろ、」とでも言うかのように鼻を鳴らすと再びトーカは移動を始めた。
後ろでシノたちが合掌していたのに俺は思わず中指を立てた。
***
「それで?なんで俺があそこにいるってわかったんですか」
執務室にて自身の椅子にふんぞり返って座るトーカをじと目で見遣る。
「お前の部下は俺の部下でもあんだよ、忘れたか?」
…セイウンめ、俺を売りやがったな…、自警団の寮まで戻らされてしまった俺はトーカに文句を垂れる…訳にもいかず、この場にはいない己の部下に八つ当たりをする。
「なんで俺を連れ戻したんです?今切羽詰まった仕事はないはずですが」
そう言うと、トーカは長い脚を組みなおし手にしていた筆を机の上にコトリ、と転がした。
「相手方の依頼だ。シキ、おめえをご指名だ」
仕事と聞くと、背筋が伸びる。
「やるだろう?」
この目に見つめられれば、俺はもう頷くことしかできないのだ。
***
執務室からでて、セイに恨みつらみを吐き出してやろう、と演習場に顔を出したら「…団長からお前の居場所、聞かれてねえけど?」と怪訝そうに言われてしまった。…は?
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