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 第七師団一番隊、ツヅラという男は自警団の中でも目立つことのない人間だった。ツヅラの時にはまだ軍事学校なんてものはなく、自警団も正式に国所有の『騎士団』だった。トーカの部下だったツヅラはそのまま一番隊の隊長として任務を果たしている。  彼は目立つようなタイプではなかったが、確実な努力と経験が彼の全てだった。そこを密かにトーカは目をつけていたのだが、ツヅラ自身も周りの評価よりも目先の任務遂行のみに集中する人間だ。  そんな彼も、三番隊という特殊な部隊ができたことには驚いた。それも隊長は自分よりもうんと年下の子供が隊長。  トーカ団長は元からぶっ飛んだ人間だったが、新設隊の隊長を見た時に団長はペドフィリアにでもなったのかと思った。これはツヅラの頭の中のみで語られたことだが、これを口外しようものなら絞められるのでこの先一生口に出すことはないだろう。いや、シキにも殺されるだろう。  この男は察しも良かった。  トーカ団長が自身の今の地位を賭けて、今回の任務に望んでいる。なぜプライドの高い彼がそこまで今回のことに全てを賭けているのか、自分にはわからないが団長が退いた時それは己の引き際だとそう思っていた。  それを見越してか、今回船内にてトーカ団長に呼び出され「お前は何があっても辞めるな、シキの面倒を見ろ」なんて脅しに近い言葉を掛けられてしまった。  それならば、彼を辞めさせるわけにはいかない。 「なんじゃこりゃ…」  今回一番隊の役割は、東倭国にいるメレフ家の一掃。そして、第二師団団長の救出だ。上手くメレフを捕まえれば、トーカの責任も全部メレフに転嫁できるんじゃね?というのがツヅラの算段である。  事前に二番隊が調べたメレフの潜伏場所に一番隊で攻めて行く。そこは洋館のような場所で少し構造が複雑化していた。  事前の情報として得ていた『羅紗』と呼ばれる人形たちが随所でいたが、所詮人形。地下へと降りていくとそこには研究所のような場所が広がっていた。 「隊長、これは…」 「お前らはメレフを探せ。俺とヴィクトルで団長殿を探す」  目の前には無数の白い繭のようなものたち。その中身が何なのかはわからないが、異様な光景であることは間違えなかった。ヴィクトルとは一番隊副隊長でありツヅラと長年相棒とも呼べる間柄である。 「とりあえず片っ端からこの繭たちの中身を調べるぞ」 「繭…俺にはどちらかというと、蛹(さなぎ)に見えますけどね」  この繭だか蛹だかわからないものの正体に嫌な予感がし、溜息を吐いた。隊員たちが一斉に散らばったのを確認し、俺達も中へと入っていく。 「…蛹だろうが繭だろうがどっちにしろ孵化してくるってか?悪趣味だな」 「まあ…俺の推測にすぎませんけど」  お互いこの無数の大きな蛹から孵化して出てくるナニカを想像し、ぞっとする。この国は一体なにをしでかそうとしている…?しかも一応、だがメレフはシビュラの王族でもある。 「クッソ、面倒くせえことしやがって」 「そんな隊長みたいに皆正直じゃないですから」  生意気な口ばかり聞くヴィクトルは俺が睨め付けたところで黙りやしない。二番隊の連中であればビビッて黙るというのに。 「さて、こいつらの正体を突き止めるとしますか」  トーカ団長に短く報告を入れ、一番近くにあった蛹を破いていく。破いたことで中のナニカが死のうが暴走しようが知ったことではない。容赦なく切り裂いて、中を除く。 「これは…」

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