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不器用なふたり
入院するほど昏睡状態だったのだから、しばらくは悠々自適な入院生活が送れると思っていた。しかし、現実はそんなに甘くはない。いや、甘くないのは現実ではなく、あの俺様クソ上司だ。俺の様子を見に来たヤツは、セイウンに「アイツ、元気だぞ。早く退院させてコキ使え」と言ったらしい。
早速セイウンに呼び出され、俺はぬくぬくベッドを手放す嵌めになった。
セイウンの顔を見た瞬間、無性に殴りたくなり一発思い切り肩に入れてやったら、「…めっちゃ本気で殴ってくんじゃん」って結構痛そうにしていた。「いや、お前怒れよ」って言ったら、「お前が寝てる間、お前のプリン食べたからな」と言われたのでもう一発殴った。
どうせ、どっかの俺様ナルシスト上司がセイウンにいらぬことを吹き込んだのだろうが、あの男がそこまで俺に気を使えるのに驚きだ。気を使えるのなら、俺に有給休暇をくれてもいいのだが、気を使えないのではなく気を使わないのだろう。クソ。
セイもセイで、なにを吹き込まれたかは知らないがたかが夢に殊勝なこって。
若干の照れくささと、相棒の優しさを実感してもう一発殴る。さすがに、殴り返されたけど。
そもそもトーカがどうやって俺の夢にもぐりこんできたのかは知らないが、他人の夢の中に入ってくるなんてなんて変態野郎だ。今度から、心の中で「俺様変態野郎」と呼んでやろう。
「おい、お前なんか変なこと考えてるだろ」
「別に?お前に対してじゃねえよ。安心しろ」
そう返すと、セイウンは俺の頭を小突いた。
「お前なあ、トーカ団長がお前のために色々してくれたんだからよ。しばらくは本当、単独行動はすんなよ?」
やけにトーカの肩をもつセイウンに、ぶすくれる。
「…別に、頼んでねえし」
自分の言葉がやけに子供っぽく聞こえて少し恥ずかしくなってきた。セイウンも別にそんな意地悪なこと言ってくんじゃねえよ。これ以上なにか口にしたら、余計にガキ臭いことを言ってしまいそうで口を噤んでいると、隣から吹き出した音が聞こえた。
「……何笑ってんだよ」
ク、ふはっと一応堪えてあげたけど、やっぱり我慢できなかったように笑ってみせたセイウンを睨みつける。それも効果はないようで、俺を横目に見てコイツはまだ笑ってやがる。
「いや、ごめんって。だって、お前がそんな子供っぽいこと言うなんて思わなくってよ」
「…悪かったな、これでも一応15なんでね。まだガキだっつうの」
「機嫌損ねて悪ぃけどよ、お前らの周りにいる奴等があまりに精神年齢低いから、お前が15って忘れるんだよ」
そう言われると、確かに俺の周りの奴等を思い浮かべ、納得してしまう自分がいる。少なくとも、ダガーには問題児がゴロゴロといるのだ。アオとレイスはすぐ喧嘩するし、双子はいつもは問題起こさないくせに、アオとレイスと一緒になって俺に特攻を試みる。俺も、ついそれに乗って、喧嘩に発展するのをセイウンが治め、ニイロさんは温かい目で見守っている。
「ホラ、隊長。んなこと言ってないで、仕事すんぞ」
俺の扱いに慣れている。セイウンは俺が「隊長」と呼ばれてしまえば、ふざけないとわかっているのだ。何度呼ばれたって慣れることはない「隊長」という呼ばれ方だけれど、こいつに呼ばれるのは嫌いじゃない。
「それで…なんで、俺が呼ばれたんだ?」
俺が呼ばれたのは、国内最大の監獄「鳥の巣」。そこに収容されている男との面会が今回の任務だ。
「フォレストを使って『蟲毒』の力を強化させようとしていた。しかもあんな『繭』まだ作り出した、その真意が見えねえんだよ」
「真意…?」
「あの呪いは生成するのに、何年もの月日がかかる上に、自分の身を滅ぼしかねない言わばコスパの悪い「兵器」だ。それなのに、奴は固執してアレの完成を望んでいた」
「なるほど?まだ、何かヤツが隠してると上の連中は睨んでいる訳だ」
「だがな、いくら尋問をしても、口を開けば『俺のシキに会いたい』だと」
俺はセイウンにバレないように、深呼吸をする。
「……一国の王を他国がこうして監獄に入れるなんてな」
「一国の王”だった”な」
「鳥の巣」に収容された罪人たちにはランクがついており、下の階に行けば行くほど犯した罪の重い罪人が収容されている。その最下層までエレベーターで一気に下がっていく。エレベーターの扉が開くと、看守が控えていた。俺達の制服を見て、敬礼して見せた看守に通行許可証を見せ、歩みを進める。
ここから先はどうやら俺一人で行かなければならないらしい。
重い扉を開け視線を上げると、そこにはガラス越しにこちらを見つめる猩々緋がいた。
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