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セツカ
俺の踵を思い切り蹴った男の背を見つめる。めっちゃ痛かった。
シキが学園に戻ってくるというのを聞き、きっとアイツは戻ってきたその足で生徒会室に行くことはわかっていた。今回第七師団が起こした一通りの流れは部下から聞いていたのだ。
予想通り、生徒会室に向かい頃合いを見て乱入するつもりだったというのに、生徒会長であるタクト・レクサがシキに対して告白をし始めた。さすがに俺もその中に突入することはせず、シキが出てくるのを待っていたのだ。
盗み聞きをしたかった訳ではない。
以前第三師団の演習中に、隣の演習場を覗いたことがあった。そこでは第七師団の連中が訓練の真っ最中で、密かに尊敬している兄を探したが、彼はいなかった。
まあ、あの人のことだから、こういった訓練には顔を出さないのだろう、と勝手に納得をする。
ただ、第七師団の人数が少し増えたように感じ、一人一人の顔をまじまじと見る。
どうにも見たことのない顔触れに、俺は好奇心でしばらく彼らを観察することにした。
見たことの無い連中は、自警団で支給される一般的な剣では無く、それぞれの武器を使っているようだ。
兄がとんでもないことを企んでいることだけがわかり、ますます自分の興味がとあるひとりに向いていく。
周りの男より、一回りも二回りも小さい黒髪の男が一人で複数人を相手にしている。二本の竹刀を踊るように捌き、立ち回る。その速さは異常で、手足にバネでも仕込まれてるのではないかと思う程だった。
俺の目線は黒髪の男をずっと追う。
まるで、恋をしてしまったかのようで副団長に呼ばれるまで、俺はそこから動くかなかった。
「セツカには学校に行かせる」
おおよそ半年前に突然、親父にそう言われた。
当然俺は当然反発し、「兄二人は、軍事学校には行かなかったのに何故俺だけ行かなくてはならないのだ」
と言い募った。
「セツカに見張っていてもらいたいものがある」
「またなんか変なこと企んでるんじゃないだろうな」
俺がそう言うと、親父は肩を竦め「うちの息子たちは、みんな私に冷たい」と言った。
「ちゃんと説明しないと俺はやんねえぞ」
そもそも第三師団のことだってあるのに、学校なんて行ってる場合ではないのだ。
しかし、俺たちの前ではヘラヘラとしている父親でも、この男はシビュラ現国王である。何も考えず、こんなことを言い始める訳が無い。
「東が不穏な動きを見せている。奴らが探しているのは、軍事学校にあることが判明した」
「なら、どっかの山奥とかに隠しちまえばいいじゃねえか」
「そういう訳にも行かないんだよ」
父が言うには、その東倭国が探しているソレは、ソレ自体が凶大な力を持ち、触った人間は気が触れてしまうだけではなく、周りにも悪影響を及ぼすものなのだと。
「……んなオカルトみたいな話をどう信じろと?」
王は突き刺すような視線で俺を見た。
「この国には神がいる。神がいるならば人智など及ばぬものがそこかしこにあるのはわかり切ったことだろう。『信じろ』と言ってる訳では無い。『理解しろ』と言っているんだ」
「……つまり、その得体の知れないものを探し出し、見張ってろってことか?」
どうやら、正解だったらしい。父は普段の柔和な笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ、交換条件っつうのはどうだ?」
きっと、俺はその時人生で一番悪どい顔をしていただろう。
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