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先生の求める答え

 静かな静かな夜だった。きっと窓を開ければ夜の匂いがする風が部屋の中に入ってくるだろうし、海の波打つ音が木霊するだけで、外は静かなものだった。  そんな中で俺達は静かに、静かに秘密を打ち明けている。  先生の言うことが本当ならば、『東雲子規』が好きになった先生はどちらなのだろうか。自分のことばかり考えてしまう自分に腹が立った。  猩々緋…あの何を考えているかわからない目をしながらも、まっすぐとこちらを見つめてくる男を思い出す。確かに『東雲子規』のことを知っているような口ぶりだった。  俺の死んだ弟だと偽ったこと、自分が入れ替わりを果たした人間だということを隠したこと。やはりあの男にはいい思い出はないが、さらに悪印象が強まる。いや、もともと敵なのだから、好印象もクソもないのだけれど。  つまり、本当の東倭国の国王は、この目の前にいる男なわけで。 「君に勘違いしてほしくないのは、もし入れ替わりをしなかったら、僕が良い国王になってたかと言えば、それは違う。  だって僕はわかっていたんだ、その『伝説』がただの呪いにすぎないということを。私利私欲で動くような王なんてロクなものじゃない。君だってそう思うだろう?」 先生のその問いに、俺はなにも答えなかった。 「今頃、あちらの世界の僕はなにをしているだろうか」  きっと先生は俺に答えを求めている。視線が強くそう訴えている。でも、俺は答えない。 「…先生は、その会いたいと強く願った人と…会えましたか」 俺がそう聞くと、先生は眉毛を八の字にして泣きそうなほど緩んだ目を細めてにっこりと笑って答えた。 「……今、とても幸せだよ」  そんな顔をされてしまえば、僕は「そうですか」と他になにも言えなくなってしまった。  先生は、「邪魔したね」と静かに俺の部屋から去って行った。  気にしたことはなかったが、確か先生は昔関西弁だったことを思い出す。でもその違いに『東雲子規』は気が付かなかった。もしくは、気が付く事ができなかった。  先生の話を聞いた今でも、拭えない違和感に、頭がパンクしそうだった。  どの世界線も時間の進みが同じだとするならば、シビュラが存在する世界では15歳だった俺が20歳として今この世界に存在しているという違和感。まず、仮定からして間違っているのかもしれないが、今の俺には断定はできない。  そして、12歳の俺には『槙野』という知り合いはいなかったはずだ。でも、この世界の『東雲子規』には『槙野』という先生がいて、先生に恋をしている。  俺の頭の中だけで、推測をいくつも立てることはできるが、それも推測に過ぎない。  ただ、ひとつだけ自分の中で納得出来る推測があるとするならば… 『「簡単言うとそうだね。パラレルワールドは「並行世界」とも呼ばれていて、僕たちがいるこの世界と呼び名通り、並行に複数存在しているんだ。」』 また先生の言葉を思い出した。  世界線がふたつとは限らない。俺は元の世界に戻ってきたのではなく、また違う世界に来てしまったのかもしれない。

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