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第6話
ミラーの自由を奪うには何がふさわしいか考えた結果、ハワードは彼に拘束衣を着せることを思いついた。本来ならば刑務所送りになる男だったからミラーにぴったりだと考えた。
備品室から無断で持ち帰った拘束衣を手にハワードは地下室の扉を開けた。ミラーは配管に繋がれたままうつぶせの体勢で動かなかった。こちらに向けられた顔には疲労の色が見える。彼はうつろな目でハワードを見たが、それ以上は何もしなかった。
よく見ると、ミラーの下半身は濡れていた。鎖の届く範囲に排泄物を処理するものは何もない。垂れ流すしかなかったのだろう。ハワードは人ひとりを監禁することは難しいと知った。おのれの準備不足を恥じた。
ハワードは拘束衣を雑巾にしてコンクリートの床を汚した小便を拭い取り、そのままミラーに着せた。手錠を外すときは警戒したが、意外にもミラーは素直に拘束衣を受け入れた。
「よく似合うぜ、マイケル」
意趣返しのつもりだったが、ミラーからの返答はなかった。両腕で自らを抱きかかえるようにベルトで縛り、配管から伸びた鎖を引き延ばしてミラーの首に巻きつけた。ますます首輪で繋がれた犬のようだとハワードは思った。
「ああ、そうだ。お前が望んだマットレスだが、まだ買いに行けていないんだ。すまないな」
ハワードの軽口にもミラーは反応を示さなかった。彼はハワードの後ろを見ていた。ハワードがミラーの視線をたどると、扉の近くに水の入ったペットボトルが放置してあった。初日にハワードが持ちこんだものである。鎖も届かず、届いたとしても後ろ手に拘束されたミラーは目の前にある水を飲めなかったのである。ハワードがそれを手に取ると、ミラーはうつろな目をぎらりと光らせた。
「これがほしいのか?」
ハワードはキャップを開けながらミラーに問うた。
「俺が飲ませてやるよ」
ミラーの返答を聞く前に、ハワードは彼のおとがいをつかんで口をこじ開け、むりやり流しこんだ。彼の胃を満たすことなく、ミラーはほとんどの水を吐き出した。ハワードはミラーの息が整うのを待たずに残りの水を流しこんだが、彼を苦しめるには至らなかった。ミラーはうめき声は上げるものの、それ以外の泣き言はいっさい口にしなかった。
ハワードは一度地下室を出て、大きなバケツに水を汲んで再び姿を現した。ハワードはミラーをすぐには殺さないが、彼を苦しめる行為を続ける義務を自分に課した。良心はとうの昔に捨てたはずだ。
目的を見失いかけていたハワードは捕らえた囚人の首根っこをつかみ、彼を膝立ちにさせ、そのままバケツに顔を押しこんだ。ミラーは激しく暴れたが、ハワードはより強い力で彼を押さえこんだ。三十秒ほどしてミラーを引き上げたが、彼は咳きこんだだけだった。
ハワードはミラーの息が整う前に彼の顔をバケツに押し戻した。
今度は一分近く呼吸を奪ったが、ミラーの態度は変わらなかった。ハワードはミラーが音を上げるまで彼を責めたが、やはりJ・ミラーという異常者を痛めつけることはできなかった。そればかりかミラーが激しく抵抗するためバケツの水はすべてこぼれてしまった。
「くそっ」
ハワードは拳で床を殴った。ミラーを殺すために生きてきたのに、実際には彼を拷問することすら叶わないというのか。
手段を変えるしかない。ハワードはミラーが何を言っても復讐をやめる気はない。彼が許しを乞うたとしても、彼が家族を侮辱するような発言をしても。ハワードにとって重要なことはミラーを死なない程度に何度も殺し続けることであり、そこにミラーの意思は含まれていない。ジェニファーとジャックの無念を晴らす。
ハワードは鋭いナイフを取り出すと、床にこぼれた水でのどをうるおすミラーの背後に立った。
「遊びは終わりだ。お前がもっとも苦しむ形で痛めつけてやる」
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