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第8話

     ◇  マイケル・J・ミラー失踪から二、三日が経った頃、ニューヨークのとある墓地で彼のものと思われる焼死体が発見された。死体はバラバラに切り刻まれていた。それらはたきびのように山積みにされ、ガソリンで黒焦げに焼かれていた。損傷が激しく、炭化して崩れてしまったものも多い。警察が確認できたパーツは二十四個だけだった。それらを組み合わせても人間の身体を作ることはできないだろう。かろうじて焼け残った二本の歯と左手の親指の指紋からマイケルのものだと推測されたが、断定できる証拠はなかった。マイケルは家族も親族もなく、また徹底的な秘密主義を貫いている男でもあった。医者から提出されたデータが正確なものなのかは確証がなかった。  市警の目は同僚であるクリス・ハワードへ向けられた。マイケルの遺体が発見された場所は八年前に殺された彼の妻子の墓石の前だったのである。ハワードは過去にマイケルへの傷害事件も起こしていた。ハワードは拘留され聴取を受けたが彼は黙秘を貫いた。  市警はハワードの自宅を捜索したが目ぼしいものは何も出てこなかった。  マスメディアは残虐な方法で殺害されたマイケルの事件を大きく報道した。ニューヨークを裏で動かすことのできるほど金と権力を持った男の悲劇的な末路。流出したショッキングな現場写真。なかでも匿名で投稿されたニュースは世論を騒がせた。  ――マイケルの正体が連続殺人鬼、J・ミラーである。  同時に彼の遺体がJ・ミラー事件の四組目の被害者の墓石近くで発見されたため、捜査官クリス・ハワードが彼の殺害に関与しているのではないかと報じられた。彼は再び注目を集め、NYPDには連日多くの記者が押し寄せた。世論はハワードに同情的だった。  事態の収束をもくろむ市警はハワードと取引をした。決定的な証拠がないだけで多くはマイケルがJ・ミラーであるという認識を持っていた。 「ハワード。君にひとりの人間を殺した容疑がかかっている」ボスが言った。「それはわかっているだろう?」  ハワードは黙秘を貫いた。 「だが君が殺した男は我々が長年追ってきた連続殺人鬼だ。もちろん、断言はできないが。君も私も、そして多くの捜査官がそう思っている。野放しにしていたらこれからも被害者は増えていただろう。だがやりすぎだ。優秀な君を手放すのは惜しいが、我々にも体裁がある。――君は今日付けでクビだ。しばらくゆっくり休むといい。まあ君ほどの男ならすぐにでもお呼びがかかるだろうが。それこそ、もっと上から」 「お言葉ですが」ハワードは小さく口を開いた。 「俺は組織には戻らない。民間人になって、しずかに過ごします」 「……そうか。君がそうしたいのならば、私は何も言えまい。家はあのままか?」 「もちろん。俺は死ぬまであの場所で家族と暮らす」  ハワードの決意は固かった。ハワードはデスクを片づけ同僚に挨拶し、早々に市警を後にした。二十年近く勤めていたわりに、荷物は段ボールひと箱で収まった。それをトランクに運び入れ、ハワードは家族が待つ自宅へとシボレーを走らせた。

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