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第2話
神の供物とは数年に一度、大陸を統べる神獣である犬狼族に捧げられる奴隷のことである。
普通の女性の場合は、犬狼族と交わったとしても子孫を遺すことはできないが、オメガと呼ばれる性であればそれが可能であるという。
犬狼族は、人型をとることも可能な種族だが、人の血が薄まるとその能力が衰えるため、オメガ性の者を求める
。古来はそれが元で争いも勃発したが、野生の能力が高い犬狼族には勝てず、平和を保つために供物と称して生贄を捧げているのである。
凶暴な獣の奴隷となることが定まったと告げられ、カムルは少し目を見開いたが死ぬよりはマシだとギュッと拳を握り頭を垂れた。
赤金の髪がゆらゆらと揺れて、わーっと湧き上がっている民衆の様子に唇を噛み締める。
騎士に命じられた時に、民衆のために命を捧げようと誓ったのだが、彼らは目の前で騎士団長から奴隷へと堕とされた自分の姿に歓喜しているのだ。
人の不幸は蜜の味ってやつか。
なんて、勝手な生き物たちだろう。
カムルは呆れるというより、愕然とした表情を浮かべて神官を見上げた。
「待ってください!団長は、俺の命を救ってくれました!それが何故罪に問われるんですか?!」
警護兵に取り押さえられながら、彼の部下達はいてもたってもいられなくなったのか、広場に飛び込んでくる。
「こんな理不尽な裁断を受けることはないです」
警護兵を薙ぎ倒しながら、五、六人の部下達がカムルに近寄ろうと必死に駆け寄ってくる。
しかし罪人に加担しては、部下達も罪に問われることは明らかである。
嬉しいとは思ったが、折角すくい上げた命を無駄にしたくはないと思った。
「下がれ!!神官の前に、不敬がすぎるぞ。騎士団長カムルの最後の命令だ!!立ち去れ」
涙が零れ落ちそうになるのをこらえて部下に命じると、ハッとした表情をおのおの浮かべて、敬礼するとゆっくりと下がっていく。
神官は慄いた様子で、下がっていく騎士たちの背中を見遣りざわめく観衆たちをぐるりと見回す。
「逃亡せぬように、カムル·グノーシスの足を奪え」
処刑人に命じると、処刑人は無表情に頷いて銀の短剣を胸元から取り出して、カムルの足首を掴むと腱の部分をゆっくりと切り裂いた。
「ぐあああああああああああッ!!!」
悲鳴が消えぬうちに、もう片方の足首を掴み同じように切り裂いて立ち上がれないように処置をした。
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