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第4話

子供の頃から、供物とされて引っ立てられていく友人などを見てきた。 それまではただの友人だったのに、その日からは獣人に捧げられる贄として人としての扱いをされなくなる。 切られた腱はじくじくと痛んで、思うように立つことも逃げることもできない。 あの場で逃げ出すことは、与えられた最後の機会だった。 罪を犯し神の呪いを受けた以上は仕方がないとは、彼は受け入れていたが、集まった観衆たちの様子に心を折られていた。 それでも救おうとしてくれた部下達の必死な様子を見て、自制心を保っている。そうでなければ、あの場で醜態を晒して暴れだしたかもしれない。 「カムル、足が痛むのか」 かつかつと石畳を歩く音をたてて地下牢にやってきたのは、別の騎士団長のセグイズである。 「ああ……俺としたことが下手を打ったな。砂漠で行き倒れていた方がマシだったか」 神域とされていたその覇王樹の庭園は、彼が訪れときには、まるで招き入れるかのように扉も簡単に開いたのだ。 あれは神の助けだと思ったのに。 「カムル。強がるな、怖いのだろう。野蛮な獣人の贄になった者は、生きてシナールへ戻った者はいない」 「ここで死ぬか、獣人に食い殺されるか。それだけのことだ。立つこともできないこの体では逃げる術もない」 「後悔しているのか」 「いや、未来が見えていたにしろ、俺の行動は変わらないだろうからな」 部下の命と自分の身を天秤にかけても、死なないのであれば部下を見殺しにはできなかったと嘯く。 カチリと音をたててセグイズは、牢の鍵を開けて中に入ると、牢の中にある籠を引き出す。 「食い殺されることはないと思うが、辛いことになるのは確かだ。エディンへの護衛を受けた以上、逃がすことは出来ないが、弱音は聞いてやるよ」 セグイズは、カムルの身体を覆っている囚人服を引き剥がすように脱がせて、腰布一枚だけの姿にすると、抱き上げて籠の中に押し込める。 「お前は、エディンで獣人の子を産まなくてはいけない。だいたい、贄たちは気が狂うか、体調を崩して数年で死んでしまう……。お前は生き延びてほしい。時が経ち、子供を産むことができなくなれば、きっと解放されるから」 セグイズは必死な表情で告げて、籠の扉を閉じるとそれを背中に担いで牢を出た。

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