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第5話
エディンの王宮がある王都クシャンは覇王樹の恩恵を受けていると言われるオアシスの中心にあり、砂漠の真ん中であるにもかかわらず、南国の樹木や果物が生い茂り、石畳と石の美しい宮殿が並ぶ豊かな場所にあった。
「ほお、供物が漸く届いたのか」
王宮の王室で寛いでいたエディンの王である青年は、ゆっくりと立ち上がり、少し脅かしてやろうと呟くと纏っていた布をはだくと軽く伸びをする。
緩やかに変化する体毛はつやつやと光りを帯びて体をふっさりと包み込む。
「王よ。いたずらに供物を怯えさせて、供物に逃げ出されるようなことになっては困ります」
「神域を侵すような輩に配慮は不要だろう」
グルッと喉を鳴らして凶暴な獣の表情を浮かべて、大きな肢体をしならせる。
種族の中でも獣化できる者達は支配階級で、アルファと呼ばれる。そのものだけが、人間のオメガと交わり子孫を遺す能力を備えている。
「余が彼の者を見定めて、相応しい伴侶を決めてやろう」
付き人が王の傍らに置かれている王冠や、キラキラとした金属の飾りを銀色の大狼と化した王に飾り付けていく。
「元はシナールの王宮騎士団長だった者との話です。これまでの供物とは育ちが違うとのこと。ご油断は禁物ですよ」
側近の黒髪の男は、見上げるほど大きな狼に化した主君を心配そうに見返す。
「ガンゼル。シナールの人間風情に不覚などはとらぬよ。まあ、神域を侵す不埒な奴だ。もし歯向かうのであれば、余が引導を渡すとしよう」
「王よ。我らにとっては大切な供物であることを、お忘れにならぬように」
血気盛んな王の様子にガンゼルはやれやれといった表情を浮かべて、供物が広間に運ばれたと告げられると、王は直ぐに行こうと美しい銀の尾を揺らしながら部屋を出た。
獣人の国とは言われていたが、周りを見回してもシナールとの違いを豊かさしかカムルは感じなかった。
二足歩行している兵士たちの兜の中身はわからないが、獣のようにパッと見ではわからない。
腰布一枚しか巻かれておらず、両手は金の鎖で繋がれていて、見下すような視線しか浴びていない。
ここで供物としての扱いを受けることは分かっていたが、これからどうなるか考えてもカムルには想像がつかなかった。
幼少のころかりパラディンか騎士になるように育てられてきて、色恋などには疎く、これから子供を自分が産ませられると聞いてもピンとはこなかった。
「エディン王、サルバトーレ様の御成り」
広間の右奥にいる兵士が大きな声で声をあげる。
ふわりと甘い香りと暖かな空気が充満する。
頭の中が眠気のような重たさで侵食されるのを堪えながらカムルは顔をあげる。
美しい大きな銀色の狼が広間の真ん中で、キラキラ輝く王冠を戴いて立っている。
大きな口は開いたらカムルの頭を丸呑みにしてしまうくらいに大きい。
それなのに、不思議に恐怖感はわかず胸の中は訳の分からない幸福感で満たされた。
狼はゆっくりとした足取りでカムルの前に立つと、何か一瞬戸惑うように視線を揺らしたが、
「貴様が我が神域を侵した罪人か」
静かな声で威圧するように冷たい言葉を投げかけた。
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