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第8話
交尾と言われて一瞬面食らった表情を浮かべてカムルは大狼の王を見あげた。
ざらっざらとした舌先が肌を舐めるのには、動きには意思があるかのようで、息があがっていく。
それでも実感がわかないといった様子のカムルに焦れたようにサルバトーレは動きをとめた。
「お前は何故恐怖しない。獣と交尾をすると言うのが怖くないのか。折角この姿でいるというのに、当てが外れる」
憮然としたような低い声が響いて、王とはいえど人臭さがあるなと親近感を覚えてカムルは視線を向ける。
「心地よいとは思うが、恐怖はないです……貴方の動きに殺意はないのはわかる。たとえ喰われたとしても、恐れはしないつもりです」
逃げるつもりはないし、腱を切られた足ではそれも覚束無いだろう。
殺されるにしても最後まで騎士らしくあらねばいけないと、国に置いてきた部下達のことを考え、そう心に決めてきたのだ。
「食いはしない。供物と言うが、食い物ではないぞ。……貴様は説明は受けていないのか」
面倒そうな口調で言うと、鼻でくいとカムルの身体を退けてから、ふんッと息を吐き出して、ゆっくりと獣化を解いて、美しい長い蒼銀の髪を纏わせて、白い身体をしならせてベッドの横へと寝そべる。
人間とほぼ変わらないように見える青年の姿に、ごくりと息を呑んでカムルは見返す。
あまりに美しい。
これがあの武勇伝をもつサルバトーレ王の姿なのだろうか。
「何人も供物を捧げられたが、こんなにも酔いしれそうになるほどの芳しい匂いは嗅いだことがない」
鼻を首筋へと寄せられて、くんかくんかと嗅がれると擽ったさにカムルは眉を軽く寄せる。
先ほどより濃くなった甘ったるい匂いは鼻先をくすぐり、脳から蕩けてしまいそうに感じる。
「貴方の方こそ……とても甘い香りがします」
「貴様が覇王樹の選びし供物だからかもしれぬ。覇王樹が自ずと扉を開けたというならば……」
全てを信じた訳では無いとつけたして、サルバトーレは褐色の張りのあるカムルの大胸筋あたりに手を置いてゆっくりとした仕草で撫であげる。
「罪人を娶ることは出来ぬが、摘むくらいは許されよう」
カムルが王の白い腕の動きに見蕩れていると、脚を抱えるようにして開かれる?とくとくと心臓が音をたてて鼓動を刻み、内側が熱で溶けてしまうような感覚とともに震え身体の中から熱い体液が溢れ出す。
「……と、とけそうだ……」
砂漠を照らし続けていた太陽のような熱に晒されてしまっているような感覚と、あの時とは違う乾きではない潤う感覚に溺れそうになる。
「供物とは、我ら王族の苗床になる者のこと……我らと子を育てる者のこと……」
サルバトーレの器用な指先が、カムルの尻のあわいを割ってゆるゆると内部を掻き混ぜていく。
「ーーッく……ッあ、はぁ、はぁ……ッく、いき、くるし、い」
忙しなくなる息苦しさは、これまでカムルが味わったことのない感覚で、大きく目を見開いて目の前の美しい男に、漸く怯んだような表情を浮かべてしがみついた。
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