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第9話
カムルの頭の中は事態に追いついてはいなかった。大狼だと思っていた獣王が突如として、見め麗しい銀髪の青年に変化して、自分の身体を組み敷いているのだ。
脚の腱を切られていたとしても、逞しく鍛えられた上体であればその身体を跳ね除けることも可能であるが、そんな力は微塵も出ずに、身体はすっかり熱にうかされたように汗が吹き出し、目眩がしてくる。
こんな感覚は味わったことがなく、鼻腔から入りこむ甘い空気も更に濃くなる。
「これは、覇王樹が与えた媚薬か……」
すんと鼻を鳴らして、緩やかな動きで胎の内側を撫でる指腹に、内腿がピクリピクリと痙攣を繰り返す。
戦場で鍛えた脈動する肉体も、まったく役にたたないようで、増やされる指の圧迫に切なく藻掻くしかない。
「ッーーっふ、……ああ、王よ……からだが……あつくて……おかしい……どうか……ッ」
命乞いなどするつもりは更々なかった筈なのに、内側から訪れる未だ知らぬ感覚に恐怖を覚えてぐいとその背中に指先をたてる。
「その表情は、とても悦いな」
初めて見せたカムルの怯えた表情に、クックックと肉食獣のような笑みを美しい顔に覗かせて、カムルの生々しい傷の残る脚を掴むと、一気に己の劣情で、まだ堅い窄まりを引き裂く。
獣化はしていなくとも、性器の形は獣とかわらず鈎がついて人の身であればかなりの痛みだろう。
「ーーッグあ、あああッあああッーーッ」
ビリビリと裂かれるような痛みと共に、脳天へと迸る熱に雷に打たれたようにカムルは目を見開いて痙攣する。
真っ白くなる視界に青や赤の光がバチバチと交錯して、あげる声も次第に嗄れていく。
「流石に破爪となれば、痛むか」
カムルの様子に青年は手を頭に添えて、宥めるように撫で上げて笑みを深める。
まるで苦しむ姿に歓喜しているかの表情が、艶やかでカムルはこくりと息を呑む。
恐ろしいと思う前に、その表情に吸い込まれるかのように釘付けになっていた。
「ーーッ……い、いたい……ですが……なぜか……しあわせな……心地です」
痛みは確かにあるのに、酒に酔いしれたような多幸感でふわりと意識がもっていかれそうになる。
「……身体の相性は良いようだな」
複雑そうな目を彼に向けると、サルバトーレは笑みを返した。
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