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第11話

カムルが目を覚ますと、王の寝所ではなかったが、宮殿の中なのか石造りの綺麗な壁の部屋に寝かされていた。 そこが牢獄ではないことに、ほっと息をついて上体を起こして周りを見回す。 美しい調度が揃えられていて、罪人の待遇にしては破格だと考えつつ、身体を包む絹の優しい肌触りに目を伏せた。 美しい大狼が綺麗な青年に変化して、自分と身体を重ねたことが、まるで夢の中の出来事のようにすら感じていた。 「……気が付かれましたか。カムル様。私は、お世話をする様に、王から拝命された子爵のガルパです」 恭しい態度でドアから入ってきた男が、目覚めていたカムルに気がつくと名前を呼んで頭をさげる。 この男も獣人なのだろうか。変化するような気配はないが、王のように人間に化ける能力があるのかもしれない。 「ガルパ様。私は罪人だよ。そのように頭をさげることはないと思うが」 「王の情けを受けた方をそのようには扱えません。罪人ゆえ後宮にはあげられないと、王は仰せですが、せめて懐妊が分かる数ヶ月間はこちらで精一杯の世話をさせていただきます」 ガルパの言い分に、カムルは自分の下腹部を眺めた。呪いで変えられた身体で、生殖機能をもったと言われたが実感はなかった。 この腹で女性と同様に子供を産むことができるのか。 「今はまだ、切られた腱が痛んで歩けない。だから世話になると思う……とても有難いとは思うよ。でも、もし、手間ではなければ杖など用意してはいただけないか」 数ヶ月ここで過ごして、王の子供を宿していないことが分かればお払い箱だろう。 それまでに、少しは歩けるようにはなっておきたいなと、ガルパに頭をさげる。 「分かりました。王の許しなしには王宮の外には出せませんが、美しい庭園がありますので少しはお慰めになれば……」 まるで女性でも扱うような待遇に、流石にカムルは苦笑を禁じ得ない。 「私は騎士だったので、美しい庭を愛でる情緒には欠けるかもしれないが、庭を歩き回ってよいならば気分転換になる」 セグイズも、子供を産むことができなくなれば、解放されると言っていた。 王に抱かれて嫌ではなかったし、幸福感すら感じていた。 よく話に聞く気が触れてしまうなどの心配はないだろう。十数年こちらで過ごせばよいだけの話だ。 それならば、死刑となるより恩情のある刑罰に違いない。 悲観は全くなかったが、王から下げ渡された後はどうなるのか不安はあった。 「まあ、どちらにしろ、死ぬより悪いことなどはないな」

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