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第12話
ガルパが用意してくれた杖は、煌びやかな装飾が施された樫の杖で、見るからに上物だとわかるものであった。
カムルは普通のヒノキ棒でよかったのだがと思ったが、折角用意をしてくれたのに文句を言ったらバチが当たるなと素直に感謝をすることにした。
砂漠の真ん中にあるというのに、背の低い芝が生えている。オアシスからの水を引き込んだ噴水から水を含んだ風が周囲を潤わせているようだ。
贅沢に水を使えるのもすべて覇王樹の恵みによるものだという。その覇王樹を傷つけるなど、この国の者にとっては、万死に値するようなものだろう。
杖をつきながら故郷には珍しい花を眺める。故郷にいた時にはこんなにも花を眺めたことは、なかったなと思い、噴水の前へと歩み寄る。
ぼんやりと見上げていると、庭の奥から従者を引き連れた線の細い青年がカムルの方へと近寄ってきた。
キラキラと輝く金色の髪と、美しい深い翠に澄んだ瞳は穢れを知らないようで、歳のころはカムルよりも五歳は下に見える。
「ここは後宮に近い庭。王族の者の以外の出入りは禁じられているはずですよ」
厳しくはなく心配するような声音に、カムルは頭を下げた。
彼は王族なのだろうか。
従者たちは雄々しく立ちはだかるカムルを警戒するように身構えている。
脚は使えないというのに護衛の様子に侮られてはいないのだなと、カムルは嬉しくなるが表情を引き締めて頭を下げた。
「申し訳ない。しかし、ガルパ子爵より庭を眺めてよいとの許可をいただきました。私はカムル·グノーシス……罪人にございます」
カムルの自己紹介に一瞬空気が止まるが、青年は少し驚いた表情を浮かべてしげしげとカムルを眺めた。
「……私も供物故、お主も同郷の者か。それにしても大きな身体をしているな」
「……騎士でございましたので身体は鍛えております。邪魔をして申し訳ございません。私は下がりますので……」
「気を遣わなくていい。私はジェラーフ、王の供物とはいえ、通いは何ヶ月もないのでな。初見で気に入られるとは、どうお誘いしたのか教えて欲しいものだ」
ジェラーフは、寂しそうに笑い噴水をあおぎみた。
「そのようなことは……」
「王の趣味がお主のような雄々しい男であるというならば、敵いそうにないからいっそ諦めもつくのだけれど」
キラキラと輝くエメラルドの様な瞳に見返され、カムルは正直に美しいと感じた。
「私は一度しかお会いしていないので、王のお気持ちは分かりかねます。しかし、私が王の立場でしたら、真っ先に貴方を選びますよ」
「クックック、カムルは面白いことを言うよね!まるで口説いているみたいだよ」
花の様に零れ落ちる可憐な笑みに、吸い込まれそうになってカムルは頬を染めた。
このように美しい青年と、閨で見た綺麗な王の姿を並べてとても似合いだと感じた。
「あの方の横には貴方が相応しい」
心からカムルは、 ジェラーフにそう告げた。
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