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第13話
ジェラーフは、カムルが住んでいた王都よりも北の方の生まれで、十二歳の時には既に供物として捧げられていた。
「故郷に帰りたくはなかったのか?」
そんなにも幼い時分から、他所の国の王宮に閉じ込められるなど、辛かっただろうとカムルは気持ちを汲むように問いかけると、意外にもジェラーフは首を横に振った。
「故郷じゃ、人間扱いされないからね。ここだと、みんなに大切にされる。王の子供を産めばもっとだろうね……なかなか上手くいかないのだけど。カムルは逃げて帰りたいの」
「故郷は大切ですが……罪を犯した私を受け入れないでしょう。今のところは酷い扱いは受けていないし、元より逃げる気はないですよ」
「逃げようとして、足を傷つけられたのではないのか?」
逃げる意志などさらさらなかったし、自らその罪を認めた。脚の腱をきられたのは逃亡防止ではない。
「武勇伝を語ってもいいだろうか」
「面白い物言いだね。構わないよ」
クックックと肩を揺らしてジェラーフは笑うと、にっこり笑って頷く。
「私はシナール一の剣の使い手でな。騎士団に入団して七年、一度も敗けたことがない。逃亡など騎士として恥じることは断じてせぬが、神官は私が反逆をおこすことを恐れたのだろうな」
逃亡ではなく、騎士としてのカムルを葬るため、脚の腱を断ったのだ。
それでも生きているだけマシだと考えるのは、カムル自身には、さして騎士のプライドなどはもともと備わっていないからだろう。
「シナール最強の騎士をそのまま敵国に渡したら、戦力差は広がるばかりだろうね。シナールの話、もっと聞きたいけれど、日が傾いてしまうね」
後宮に戻らなきゃならないと、ジェラーフは視線を煌びやかな建物に向ける。
「戻っても、八年も一緒にいるとあの人との会話もなかなかないし、夜も来てくれないのだけどね」
「倦怠期というものがあると聞きます。そんなに落ちこまないで大丈夫ですよ」
励ますようにカムルがジェラーフに告げると、嬉しそうにニッコリと笑って手を横に振る。
「カムルも、足が治ったら、一緒に玉遊びをしてくれ。お前はとてもうまそうだ」
護衛を従えて立ち去る背中を見送ると、カムルは自分の足元を見下ろした。
特に逃げ戻る気持ちはなかったが、このような場所は自分には不似合いで、早く解放されたい気持ちには変わりなかったのだ。
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