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第19話

「カムル様、駱駝のご用意は出来ましたが搭乗られたことはありますか」 ガルパが突然遠征用の荷包を用意したと朝から慌ただしくやってきて、カムルは驚きを隠せなかった。 エディンへやってきて二ヶ月が経つが、外出を許されたことはない。 脚の腱の傷は癒えて、ようやく杖なしでゆっくりではあれば歩くことが出来るようにはなった。それだけでも驚異の回復力である。 遠出と聞いて前のカムルであれば気持ちが逸るくらい好きだったことなのに、脚の腱のことがあるのか駱駝を上手く駆れるか不安なのか乗り気になれなかった。 「経験はあるが、どこへ向かうのだ」 「王が貴方に同行して欲しいとの仰せです。年に一度の覇王樹への参詣かと」 そのうち連れて行きたいとサルバトーレが言っていたことを思い出して、カムルは得心がいったような表情を浮かべた。 しかし、ここ数日というもの彼には珍しく食欲がなく、何だか疲れやすくなっている気がしてどうにも同行を断れないかとガルパにいうが、王の厳命らしく首を横に振られた。 仕方がないか。 王にしても、私の罪を払拭しようとしてくれているのだ。蔑ろにはできないな。 用意された砂漠渡りに使う厚手の衣を身に纏う。 「ガルパ様、私にも武器をいただけないか。勿論、逃亡や反逆は起こさないことを誓おう」 盗賊の縄張りもある危険な地域である。 供物は捕虜の扱いと同じである。武器など渡せば逃亡の危険もあるだろう。 無理とは思いつつもガルパに聞くと、待つようにと告られて、奥から細身のレイピアを渡される。 カムルが普段使っていた大剣とは違うが、それでもガルパが渡せる精一杯のものなのだろう。 「ありがとう。越境地域には、賊が多い。私でも元は騎士……護衛だけに戦いを任せるわけにはいかないので」 腰にレイピアを吊り下げると、扉を開いて話を聞いていたのかサルバトーレはおかしそうに肩を揺らして笑っている。 「勇ましいな。流石は無双の騎士団長だな。まあ、そなたは我やうちの近衛大将に護られておけばいい、そのレイピアを抜かせないことを今回の参詣の目標としないとな」 サルバトーレはカムルの腕を力強くぐいぐいと引いていき、宮殿の外に並べた駱駝の一個隊の先頭の駱駝へと誘った。

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