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第20話

照らされる太陽の熱のせいか、カムルの視界はぐらぐらと揺らいでいた。 カムルは駱駝に一人で乗る気でいたのだが、カムルを自分の駱駝に一緒に乗せるとサルバトーレに駄々をこねられた。 あまりに頑固なサルバトーレの言い分に折れて、今、カムルは彼を背後に凭れるように身を預けていた。 ずっとここのところ調子が悪かったので、サルバトーレの我儘もたまには良い方に転ぶこともあるのだなとカムルは考えていた。 「砂漠は慣れないし……嫌なことを思い出すかからか、視界がぐるぐると回っています」 「弱音をあげるそなたは珍しいな」 くすくす笑いながら駱駝の手網をとって、隊の真ん中でゆっくりと歩く。 「参詣のついでだが、前にも言ったようにそなたが覇王樹の導きによって、命を永らえさせたことを証明したい」 「……後宮にはあがりたくはないですよ」 ジェラーフに聞いた話では、そこでな戦いには勝てる自信はない。物理的な肉弾戦であれば、話は容易なのだ。 「ジェラのヤツに何か聞いたのか。歴戦の勇士が尻尾を巻くほどのことか」 くすくすと可笑しそうに揶揄うサルバトーレの表情に、恨めしげにカムルは見上げた。 「心理戦は苦手です。愚直で単純に生きてきましたから」 「ああ、よく分かる。しかし、そなたは我と長い時間過ごしたいとは思ってくれぬのか」 問いかける言葉に、若者らしい情熱を感じてカムルはサルバトーレに笑みを刻む。 「どうでしょう。私も一人で身体を鍛錬したい時もありますので」 「なんと、つれぬ言葉だな」 サルバトーレと一緒にいる時間は人となりを知り若く我儘でそれが可愛らしく思えて癒される。なによりも暖かい匂いに多幸感でいっぱいになる。 しかし、それは匂いが引き起こしていることに過ぎない。 その匂いがなければ、どうなるのだろう。 ただ本能が欲してるだけに過ぎないのじゃないだろうか。 それを考えると、カムルはサルバトーレの言葉に素直に頷けなかった。 「それにしても、顔色が悪いな。すぐ近くにあるオアシスで従軍医に診てもらおう」 サルバトーレは、重たいカムルの身体をささえて、近衛大将にオアシスへ急ぐようにと伝えた。

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