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第23話
囲まれている。
近衛大将の武力は分からないが、この数を相手にするには、脚の腱を切られた身体では太刀打ちできない。
カムルは下腹部をゆっくりとさする。
ここにいる子供を護ると誓ったのだ。この誓いを反故にする訳にはいかない。
「カムル様、テントの中に入っておいでください」
逃げろと言わないのは、人数が多い分追っ手をむけられる方が厄介だからだろう。
カムルはレイピアを構える。
「私は足が不自由ゆえ、援護しかできぬ。だが、二人の方が状況はマシだろう」
「……まさか、裏切り者がおるとは」
「罪人の子供を世継ぎにするなどもってのほか。ユピテル様、ハイショ侯爵様からの厳命です」
ギリギリとユピテルが奥歯を噛む。
王の命令よりも優先される命令はないが、その事実が公表されなければ問題はないのである。
そのためにも、事実を知った者は抹殺されねばならない。
「ハイショ侯爵の娘は第二夫人だ。世継ぎが産まれることで、正妻ではないにせよ、カムル様に権力が集まることを懸念されているようだ」
ユピテルが状況を説明するが、カムルはとりあえず血路を開こうと視線をさまよわせる。
権力の取り合いの構図はどこの王族でも同じようなことばかりか。
「ユピテル、駱駝を頼む」
カムルは焚き火から火のついた薪を掴むと、テントの中へと投げ入れる。
ぶわああと一瞬で燃え上がる炎のついたテントをレイピアに引っかけて、兵隊の軍団の中に放り投げる。
「カムル様、駱駝もってきました」
「飛び乗るぞ!!」
ユピテルの言葉に駱駝に腕をかけた瞬間、火のついた衣を纏い、一人の兵士が剣を手にしてカムルへと突っ込んでくる。
「カッ!!カムル様!!」
駱駝に乗ったユピテルの目が大きく見開かれる。
緩やかに時が動く。
カムルはとっさに庇うように下腹部を抱える。
兵士との間合いが詰まる。
ゆっくりと剣が振り下ろされ、飛び散るのは赤い鮮血。
そして、ふわりと蒼銀色の毛が舞い上がり、兵士の首をくわえると、星空の先へと放り投げた。
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