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第13話

「穂高が航以外を見てるのが珍しくて。お前、普段なら授業中もずっと航見てるのに」 「俺だって色々と考えることがあるんだよ」 「どうせその色々とってやつも、航関係だろ?」 「当然。航に関係しないことに費やす時間なんて無駄だからな」  サラッと肯定した穂高は少し離れた席に座る航を見た。真剣に教師の話を聞き、しっかりとノートをとっている。ああして要点がまとめられたノートは、この後、穂高の手元にくる。勉強が苦手な『穂高君』の為に、航の優しさだ。 「バカな航。こんな簡単な内容、教科書読めば分かるのに」 「うわ、本気で珍しいんだけど。穂高が航のことを悪く言った!」 「黙れミチオ。俺の航に対するバカは、大好きと同じ意味だ」 「じゃあ俺に対するバカは?」 「お前に対してのは、正真正銘、心からのバカだな」  ミチオを鼻で笑った穂高は、もう一度航を見る。するとタイミングよく満足そうに頷いた航が穂高を見た。二人の視線が合う。 『穂高、前見ろ。ま、え!』  声に出さず告げてくる航に穂高は手を振った。航は顔を顰めて前を指さし、前、前と無音で連呼する。 「ほーんと、可愛いんだから」 「穂高、顔が緩みきってる」  ミチオの指摘に穂高は舌を打ち、航に手を振り直して前へと向き直る。そうして授業を聞いているように見せかけ、ミチオに話しかけた。 「俺、明日からヒートの予定だから。俺がいない間、しっかり航のこと見張っておけよ」 「お前さ。それが人にものを頼む態度だと思ってんの?」 「逆に聞くけど、俺がお前に頼むと思う?俺がミチオに?寝言は寝てから言えよ」  しっかり頼んでんじゃねぇかよ、とミチオが言わないのは、それが頼み事じゃないと知っているからだ。  ミチオにとって航は友達なのだから、穂高に言われなくとも進んで航を守る。今までだってそうしてきたし、これからも変わらない。  だからこれは頼み事じゃなく連絡事項でしかない。 「穂高。今のは寝言じゃなくて注意だからな。穂高が嘘のヒートで学校をずる休みしてる間、俺が航と番っても知らないからな。忘れてるかもしれないけど、俺だってお前と同じアルファなんだし」  ミチオは冗談のつもりだった。本気で航とどうにかなろうなんて、欠片も思っていなかった。  でも相手が悪い。航に関しては器が米粒並みに小さい穂高に、そんな冗談は通用しない。 「──ア?」  地獄の底から這い出たような濁声の後に、バキッと何かが壊れる音。目を据わらせた穂高がボールペンを握りつぶした音だ。  ちなみに、そのボールペンはミチオが穂高の家に忘れて行った物だった。 「俺さぁ、さっき万が一にでも航に手を出すやつが現れたら、殺すって決めたところなんだよな……まさか第一号がミチオだとは思わなかったけど……うん、ちょうどいいな」 「穂高さん。参考までに聞かせてほしいんだけど、ちょうどいいとは?」 「だってお前だったら日頃の恨みもあるし、手を抜く必要ないし?それにお前だったら片付けるのにも楽そうだし?ほら、ちょうどいい」  折ったボールペンを穂高はミチオに返した。今さら返されたところで、壊れた物はゴミにしかならないけれど。 「ミチオ、今のは警告だから。次に余計なことしたら、お前の人生そこで終わるって覚えておけよ」  誓いの証に渡されたボールペンから穂高の体温は伝わってこなかった。この男に人の温もりて存在しない。

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