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第20話
「はぁ……あ、あ、はっ」
胸の頂を軽く吸うだけで声を上げる航に、穂高は追い立てる手を止めない。途切れ途切れの悲鳴が聞こえる度に、穂高の中で理性の糸が切れていく。一本、また一本と解放されていく本能が外へ出てこようと閉じ込めていた扉を叩く。
最初は航を助ける為に始めたはずだった。まだ本格的な発情期に入っていないなら、なんとかごまかせると思っていた。航も、自分も。
けれど今では、途中で止めることができるか自分自身でもわからない。航の熱に中てられた身体が言うことを聞かない。
「穂高……ン、ほだか、そこ。そこ、もっとシて」
胸を突き出して航がねだると、穂高は言われた通りに強く吸い上げる。それでもまだ身体を押し付ける航に、今度は甘く噛んだ。
その鈍い刺激に航が息を詰まらせる。
「は、うっ……うう、んっ、ぁ」
「航は噛まれるのが好きなんだ?」
「アッ、好き……それ、好き。噛まれるの気持ち……いァっ」
本来なら痛いはずの行為も快感に変わる。噛まれると初めはズキッと痛むのに、その奥に確かな疼きがあった。
その疼きは胸から広がって、指の先まで浸食する。理性が本能に蝕まれる。
「穂高っ……穂高、苦しい。俺のからだ、どうなっちゃうんだろ?」
胸元に顔を埋める穂高の頭を抱え、航は震える。もっと強い刺激が欲しいと叫ぶ自分と、それを怖がる自分が航の中で戦っていた。初めての快楽は航にとって強烈すぎた。
「穂高怖い……俺、こわい」
こうして怯えている時も航の身体は更なる快感を求めていた。航の心を置き去りにして、次へ次へと進もうとしている。
自分ではどうしようもない熱を、航は穂高にぶつけるしかなかった。
「穂高っ……ほだか、助けて。苦しっ……ほだ、か」
助けてと震える航を前にして、苦しいと悶える航を前にして。穂高は目を閉じる。
深く息を吸い込んで、その倍の時間をかけて吐く。
どんどん剥がれ落ちていった自制心。残り少なくなったそれを、穂高は捨てた。
次に目を開けた時、穂高は素の自分に戻った。発情期のオメガに誘われ、欲望のままにつき動く獣。好きなものを好きなように奪い取る本性が、露わになる。
「アッ……いあ、痛い穂高っ、ほだかぁ……それ痛い。やめ、ッ……」
航の身体を限界まで壁に押しつけた穂高は、自身の膝で航の股を苛める。スラックスの中で主張していた航のそれは、突然の痛みに慄いた。航が怯んだ隙に、穂高は航の手を頭上で一纏めにする。
ぎちぎちと鳴る航の手首。その音は、穂高が力任せに掴んでいる証拠だ。
「いたい、穂高待って……手、やめて」
「航。航、ごめん、航ごめん。ごめん」
──優しくしたいのに無理なんだ。
何度も何度も謝って、穂高は航の下肢に手を伸ばした。片腕で航を押さえつけながら早急にベルトのバックルを外し、破く勢いでスラックスの前を寛がせる。既に汚れていた航の下着を強引に下げると、穂高は航のそれを直に握った。
「はっ…アアッ…………い、やぁ」
穂高の耳に入ってきたのは、悲鳴ではなく嬌声だった。
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