26 / 28

第26話

「穂高っ!!本当にごめん……っ!本当に本当に、本当に悪かった!」  あの後二度、三度と抱かれた航は意識を飛ばし、穂高はそれを担いで家へと帰った。さすがにシャワーに入れることはできず、可能な限り汚れを拭き取ってやると、自分もその隣に潜り込んだ。  けれどさすがに眠りにつくことはできず、頭の中で色々と考えた。航が起きたら何から話すべきか……いくら抜けている航と言えど、全てを夢だとごまかすには無理がある。  いっそのこと全部ばらしてしまおうか。今なら航にも弱みはあるし、上手く言いくるめられるのではないか。  そうして善と悪の狭間で穂高が悶々としていると、意外と早く航が目を覚ました。その直後に出た言葉が、これだったのだ。 「俺また穂高を困らせて……ッ、いくらヒートがまだ先だったとしても、ちゃんと薬は持っておくべきだったのに。いや違う、おかしいなと思った時に対処しておくべきだった」 「…………航、ちょっと待」 「でも悪いと思ってるのは本当だから!!今度からは絶対にこんなことはしないし、その……穂高にもさせない、し」  だから許してくれと航は言う。  あの熱すぎる情事は、航のヒートが起こした過ちで穂高はそれに中てられただけなのだ、と。  何度も謝り、何度も頭を下げる航に穂高の善意は消え失せた。人がアレコレ悩み、今までの悪行を全て告げようとしていたのに。 「……そう。そうだね、もう二度とこんなことはないようにしないと、ね」  自分の謝罪を穂高が受け入れてくれたのかと思った航は、勢いよく頭を上げた。けれどそこにいる穂高は、笑っているのに笑っていない。妙に目が据わっているのだ。 「ほだか?」 「確かに今回の航は隙があったけれど、でも薬を使ったところで必ずしも抑制できるとは限らないし。今は薬の効果があっても、その次はわからないし?そうなったら航の誘惑に負けたゴミ……じゃなかった、アルファが群がるんだろうし?それは困るね、ああ、本当に困る」  戸惑う航を放置し、一気に紡いだ穂高はにっこりと笑った。  先ほどの様子からいつもの穂高に戻り、航は肩の力を抜く。穂高の様子が変に見えたのは、自分の見間違いだと思ったのだった。 「だからね、航。これは僕からの提案なんだけど」  一息置いて穂高は続ける。 「今度から僕が航を抱いてあげる。ほら、僕はオメガだから航に誘惑されたりしないし、僕はオメガだから航の中に出しても妊娠しないし。それに僕はオメガだから航だって無理に番われるんじゃないかって、不安にならなくて済むでしょ?」  満面の笑みで真っ赤な嘘を吐いた穂高は、航の唇に指を押し当てた。 「僕を守ってくれるヒーローに、僕だってお返しがしたい」 「穂高……。でも、そんなの穂高に悪いし、それに!」 「航は僕以外に抱かれてもいいの?僕以外とキスをして、僕以外に裸を見せるの?僕はそんなの……航にしかしたくない、のに」  唇を噛みしめ、苦しそうに眉を寄せて。今にも泣き出しそうな穂高を見て、航は胸が痛くなる。穂高を守りたい気持ちはあっても、悲しませたいとは一切思わないのが航だった。 「航は、僕じゃなくても平気なんだ…………淋しいな」  俯き呟く穂高に航の胸は張り裂けそうになる。俯いた先の顔を知っていれば感じ方は違ったものの、完璧に演じ切る穂高に航は焦った。 「違う!俺だって、あんなことをするなら穂高じゃないと嫌だけど……でも、俺たちは恋人ってわけでもないし。俺を助ける為だからって、穂高は嫌々あんなことしなくてもいいんだ」 「嫌々なんかじゃない。僕だって航を助けたい。航の力になりたいって思う」 「穂高……」 「航……」  じっと見つめ合って、お互いに名前を呼んで。告白するには絶好のタイミングに、穂高は口を開いた。 「ぼ……俺、航のことが好きだ」

ともだちにシェアしよう!