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第22話:紫色のチェ・ゲバラTシャツ8
「いろいろ考えたんですけど、本当になんにも浮かばなくて……」
そこに描かれたラフスケッチは、描きあぐねた結果、僕の手でぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。
「ふーん。でも、これはいいんじゃないのか?」
そう言って相楽さんが次に手に取ったものは、僕が空いたペットボトルをリサイクルして作った風車だった。
八角形のボトルを切り開き、飲み口のところを中心にして、外に広がるように折って羽根にする。
それからキャップに穴を空け、針金を通せば完成だ。
「小学校の時だったかな? 夏休みの工作で作ったんです」
デザインに頭を悩ませるうち、手が勝手にそれを作っていた。
なんだか情けない気持ちでそのことを説明すると、相楽さんは感心したように目を細める。
「これ、いけるんじゃないのか?」
「いけるって、何がですか?」
「今回のコンペの提案だよ! ペットボトルを切り開いて風車にできるように、ラベルに切り取り線を印刷するんだ。風車の他に、何ができる?」
「えーと……小物入れ? それから口のところを利用して、風鈴とか。あと風車も、羽根の形を工夫すればいろんなパターンができると思いますけど」
「それでいこう! エコ水のコンセプトにも合ってるし……」
相楽さんはフォークを置き、僕のスケッチブックにデザインのラフを描き始めた。
「なんですか? それ……」
相楽さんの描く風車には、なぜか目や口があった。
「風車のモンスターだよ。キャラクターだと、ただの風車より集めたくなるだろ!?」
不細工でユーモラスなモンスターが、次々と生まれていく。
「こいつら、回るんですよね?」
「風車だからな。ペットボトルが回ってうるさく鳴るのも、こういうモンスターなら許せそうだし」
「確かに。いいですね、イメージ湧いてきました!」
ペットボトルのラベルは切れば剥がれてしまうので、モンスターの顔の部分は切らずに使うボトル上部に配置することになる。
逆にいらなくなる商品まわりの情報は、羽根の部分に配置すればいいわけで。
そう考えると僕が悩むべきことはほとんどない。
あとは相楽さんのラフを参考に、これの展開案を作っていけばよかった。
僕はさっそくノートPCを持ってきて、その作業を始める。
風車にしてもボトルのままでもカッコよく見えるデザインと考えると難しい面もあるけれど、方向性さえ決まってしまえばそこに向かって突き詰めていくだけだ。
「……よし!」
30分くらいでデザインの土台を作り上げ、一旦手を止める。
すると相楽さんの作ってくれたパスタが、すっかり冷めきってしまっていることに気づいた。
(せっかく僕のために作ってくれたのに!)
慌ててリビングを見回すと、インスタントコーヒーを作ったカップを2つ持って、相楽さんがキッチンの方からやってくる。
「ん、どうかしたのか?」
「いえ、なんでも!」
僕は急いで、残りのパスタをかき込んだ。
*
そして2週間後――。
僕は相楽さんと2人で、再びストーリー飲料の本社を訪れていた。
この前みたいに三木さんと鉢合わせせずに会議室まで来られて、それだけでホッとしてしまう。
けれどもこれからプレゼン本番だ。
僕らは大きく印刷したボトルデザインと風車のサンプルを手に、先方の到着を待った。
(本当に、夏休みの工作の風車なんかで大丈夫なのかな?)
来る前まではいける気がしていたのに、2~30人は入る広い会議室にいると、その自信もしぼんでしまう。
――頑張って、アライくん。
あざ笑うように言った、三木さんの顔が脳裏に浮かんだ。
「こらー! 暗い顔すんなって」
相楽さんに強く、背中の中心を叩かれた。
「今、なに考えてた?」
「それは……プレゼンのことをいろいろと」
プレゼンの主役はアートディレクターである相楽さんだ。
とはいえ僕も、デザインの細かか点で質問を受ければ、答えなければならない。
緊張する僕に、相楽さんは言う。
「余計なこと考えんな、このあと何食いに行くかでも考えてろ」
彼はもう一度、さっきより優しく僕の背中を叩いた。
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