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第23話:紫色のチェ・ゲバラTシャツ9

「お前のデザインは完璧だ、それは俺が保証する。だからミズキは堂々としてればいい。それでもまだ自分の腕を信じ切れないなら、俺を信じろ」 (そうだ、僕は相楽さんを信じていればいい。この人についていけば大丈夫だ) 余裕の笑みを浮かべる口元、それを囲んでいる精悍な顎のラインを見つめる。 「カッコいいですね、相楽さんは」 「なんだよ、急に……」 「僕も、相楽さんみたいになれたらいいのに」 すると彼は、どこか決まり悪そうに唇を歪める。 その顔を見ていたら、僕も自然と笑みが浮かんできた。 そこで会議室のドアがノックされる。 「お待たせしてすみません!」 ドアを開けたのは、爽やかなショートヘアの女性だった。 前回のオリエンでも会った担当者のひとりで、早乙女さんという方だ。 「ご準備できてます?」 「はい、もう」 相楽さんが返事をする。 「こちらもすぐに参りますので」 早乙女さんがそう言ってお茶を出してくれてる間に、先方の担当者が揃った。 向こうは十数人、こちらは相楽さんと僕の2人。 テーブルを挟み、向かい合わせに席に着く。 (なんだか、就活の時の面接を思い出すな) けれども僕は今、相楽さんと一緒だ。 就活中の、自信がなさそうにしていた僕じゃない。 それを確認して正面のスクリーンを見ると、ちょうどそこに相楽さんの作ったプレゼンテーション資料が映し出された。 「今回はご提案の機会をいただき、誠にありがとうございます。えーっと、このプレゼンって僕らがラストなんですっけ?」 「ええ、他のプレゼンは昨日までで終わっていまして。御社からのご提案を伺ったあと、結果をご連絡できると思います」 相楽さんのラフな問いかけに、早乙女さんがにこやかに答えた。 「そうですか、緊張しちゃいますね!」 そう言いつつ、相楽さんの横顔には自信がみなぎっている。 自由すぎる上司が、今ばかりは本当に頼もしかった。 相楽さんはテーブルを見回し、ゆっくりと話し始める。 「僕たちテンクーデザインからのご提案は『もっとエコしたくなるエコ水』です」 プロジェクターから投影される映像に、僕のデザインしたパッケージのサンプルが登場する。 透明のペットボトルに、よく見ると目が着いている。 引きで見るとそんな感じのデザインだ。 それからカメラがペットボトルに寄っていき、ロゴとモンスターの顔がはっきり映る。 モンスターの口元は飲み口を中心に裏側に配置されているので、正面からは目しか見えない。 上下逆転した目のデザインに「可愛いですね!」の声が上がった。 「ありがとうございます! でも、仲間は他にもいるんです」 目だけのモンスターが表情違いで展開し、それから真上からのビジュアルが明かされる。 ここでモンスターの口が見え、上下逆だったということが分かる。 テーブルの向こうから、好意的などよめきが上がった。 「意外と凶悪そうな顔のもいますね?」 「1番右のがユーモラスで好きだな」 「その隣も、ずる賢そうでよくないですか?」 そんな雑談が聞こえてきた。 (あれ……いい感触?) どうなることかと見守っていた僕は、ようやく手応えを感じ取る。 それから相楽さんは印刷したパッケージデザインを配り、最後にこれが風車になることも説明した。 何匹ものモンスターが風車になって回る映像に、パラパラと拍手が上がる。 ところが……。 「風車になるっていうアイデアはいいんだけどね。これ、カッターか何かで切り開かなきゃいけないんだよね? それを推奨しても、きっとサポートで対応しきれないからなあ」 年配のひとりが、眉間に皺を寄せて言った。 (それは……そこまで考えてなかった……) 水を差され、湧いていた会議室が静まる。 (どうしよう、相楽さん……) 僕は祈る思いで、隣の横顔に目を向けた。 相楽さんの口元が動く。 「ごもっともです」 その声に迷いはなかった。 「当然そういったご意見もあろうかと、調べて参りました」 (調べた?) 思いも寄らない言葉に、僕はただ話の展開を見守る。 彼は画面を切り替え、プロジェクターにある映像を映し出した。

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