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第41話:ハワイアン・ジントニック10

(あ、ヤバい……) 器用な舌が宣言通り、僕を蹂躙していく。 頬の内側をグリグリとなぞられ、唾液が溢れ出した時には口角に力が入らなくなっていた。 「もうだいぶ、よくなってきてるだろ」 喉元に伝った唾液を、相楽さんが指ですくい取る。 濡れた指が、鎖骨の方へと滑っていった。 それから手のひらで、体の線を探られる。 (えっ、うそ……) いつの間にかシャツの中に、手のひらがもぐり込んでいた。 大きな手のひらに揺さぶられる感覚に、背筋がぞくりと震える。 「いい反応」 相楽さんは肋骨の並びを確認するように僕の脇腹に指を這わせ、そこに舌を押し当てた。 「あんっ」 生々しい刺激に、変な声が出てしまう。 (何……この感じ) 彼の触れ方は優しいのに、触れられるたびに体の奥がじんじんと疼いていった。 そのうちに僕を愛撫する舌先がへそまで下りていって、くぼみに沈み込む。 「やだっ、そんなとこ!」 「ミズキ……」 抵抗しようとする手首をつかまれた。 「そんな可愛い声出されたら、もっとしてやりたくなる」 へそより下へと、熱い舌が移動していく。 「もっとって、キスだけじゃ……なかったんですか?」 その先へいく心構えができていない。 けれども相楽さんの左手はショートパンツの紐を解き、その中まで滑り込んでいってしまった。 「……!」 あれよあれよといううちに、男の急所を手のひらに包み込まれる。 心臓がドクドクと、耳に届くほどの音をたてていた。 (嘘だ、こんな――) 初めてのことにただただ驚いてしまって、抵抗の声も出ない。 助けを求めるように彼の顔を見ると、揺れるプールを反射して輝く瞳と目が合った。 「ミズキ……」 額を合わせるようにして、相楽さんが僕を見つめてくる。 「怖けりゃ目え瞑ってろ」 挑発するようなセリフに続いて、下着の中に差し込まれていた手が動き始めた。 「ああっ……!」 やわやわと揉まれるうちに、息が上がってしまう。 「や、こんなの……」 言葉とは裏腹に体は素直に反応して、腰が揺れる。 「硬くなってきた」 「嫌だっ」 「どうして? 健康な証拠だ」 男に触られて硬くなるのは、健康なんだろうか。 ただの条件反射以上の興奮が、僕の体を包んでいた。 「あ、ぁ、あ……っ」 口からあられもない声が出る。 僕はいつの間にか、リゾートチェアの両端に必死につかまっていた。 (あ――) 快感の予感に、全身に鳥肌が立つ。 星をあおぐ。 けれども相楽さんの顔が視界を遮り、唇を塞いだ。 手で追い詰めながら舌を吸われて、頭の中を掻き回されているような錯覚に陥る。 (イク……っ、イッていいのか?) 理性が抵抗する。 (無理、イキたい!) 深いキスを受け入れながら、唐突に涙があふれた。 そしてグラリと世界が反転し――。 気づいた時には、僕は彼の手の中で果てていた。 (嘘だ――…本当に……) 潤んだ視界の向こうで相楽さんが、ハンカチを取り出した。 (ホントにしちゃったんだ……) 「あ~……死ねる」 恥ずかしすぎて死んでしまいたい。 「馬鹿、こんなことで死なせねーよ!」 相楽さんは汚した手のひらを雑に拭き、カラリと晴れた笑顔を浮かべた。

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