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第3話

 穏やかに暮らしていた海津家に悲劇が降りかかったのは、湊が十四、弘人が十一の時だった。  大らかで優しかった両親が、ある日突然無言の帰宅を果たしたのだ。朝からドライブデートだとうきうき出かけた先での事故だった。  兄弟には両親が残した家と多額の保険金が残され、当たり前の顔をしてそれに親戚が群がった。これまでほとんど付き合いなどなかった者たちが、目の色を変えて養育者に名乗りを上げた光景に、湊は弟を抱きしめて嫌悪に震えた。それでも腕の中の存在を励みに、母方の祖母を保護者に選ぶことによって何とか窮地を切り抜けたが、その祖母も共に暮らし始めて僅か二年で他界してしまった。  湊には今でも昨日のことのように思い出す場面がある。持病持ちでほとんど病院から出られなかった祖母が、二人きりになった兄弟に作ってくれた紙風船。パッチワークのような和紙で折られたそれが、ぽおんと宙を舞って、ゆらゆらと弘人の手元に落ちていくシーン。  そうして起こった、ささやかな奇跡を。

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