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第5話「ささやかなプレゼント」

〇ささやかなプレゼント 「けほ、けほ」  最近、インフルエンザにかかってからと言うものの、どうにも咳と痰だけが俺の中には居座り続けている。 「柴田くん、辛そうだね。大丈夫?」 「あ、はい、すみません」  俺が小さく謝罪すると、店長の安住さんは小さく苦笑してみせた。  ほんとに、咳以外は何ともないのだ。  もしかすると、少しだけ肺をいためてるかもしれないが、生活には支障がない。  それでも、飲食店で働く以上は咳をするといかんせん目立つ。どうにか、したいなあ。  ピンポーン、と来店のチャイムがなる。  俺は一息つくと足早に入口へ向かった。 「や、元気?」  一番元気のなさそうな人からのこの言葉にはどう返すのがいいのだろうか。 「いらっしゃいませ、今日もお仕事ですか?」 「仕事仕事、毎日仕事だよ~」  不意に喉に違和感を覚えた。 「っ、けほ……っ」  抑え込もうと試みるも、あえなく撃沈。 「柴田くん……風邪?」 「あ、いえ、その、名残というか……」  もごもごと言い訳を考える俺を他所に、あーあるあると自己的に納得するように頷いてみせる。  前から思っていたけど、結構マイペースな人だなあ高宮さん。 「あ、あっさりで」 「はい、かしこまりました。お冷持ってきますね」  あの人も風邪をひいたり、するんだろうか。…いや、するか。なんて一人頭の中で考えてみる。 (そういえば、いつも眠そうだけど…仕事かな。 体壊さないといいけど) 脳内会議も程々に、俺はお冷を持って恐らくいるであろう18卓へ向かう。すると、彼は上半身をこちらに向けて手招きしていた。 「すみません、お冷遅れてしまって…」 どうやら、お冷の催促の手招きではなかったようだ。目の前の彼は、ははっと小さく笑うとカーディガンのポケットを片手で漁るなり何かを掴みこちらへ差し出してきた。 「……飴?」 「今日、知り合いにもらったの思い出してね」 「これ、俺に?」  すると、また小さくはにかむとそうだよ、と言うように頷いてくれた。 「確か…ほら。 咳止め系の飴もあったなって思い出してさあ。 喉、痛めたら大変だからね」 せっかくの美声が台無しだ、なんてちょっとだけ意地悪そうに笑うから結局俺は恥ずかしくなって俯いてしまった。  ちゃんと、顔を見てお礼が言いたいのにこれじゃあ台無しだ。 「……ありがたく、いただきます」 「そーして。 ……あ、でも咳止め云々のやつは結構効くらしいから不味かったらごめんね」 まるで俺を安心させるみたいに何度も何度も笑ってみせるから、つられるように顔が緩む。  嬉しい、すごく……嬉しい。 俺は厨房前のカウンターへ戻ってからも、何回も心の中であの人へのありがとうを呟いた。 ラストオーダーは深夜1時を回ったら 「ささやかなプレゼント」 完

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