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第11話運命の人3

早朝から、儀式や祭礼、堅苦しい行事ばかりにアデルは辟易していた。自分が着せ替え人形にでもなった気分で、周りの言う通りに動いている。 婚約の儀には、亡き母の着たドレスを使用するらしく、婚約者のサイズへ変更する作業が行われていた。 「アデル様……クロード様に不穏な動きがありました」 昼過ぎ、兄を監視しているコニスから待ちに待った報告が来た。アデルの頭の中が様々な考えで回転し始める。 婚約の儀で城内が騒がしいうちに何かあると思っていた通りであった。 「やっと動き出したか」 「クロード様は今夜、城内で取引を行うようです」 「…………兄上も思い切ったことを」 「取引を行うのは、婚約者様の国の従者です。クロード様の側近からの確かな情報ですが、いかがされますか」 (兄上もみんなして、俺の結婚を潰したがる) と、アデルはほくそ笑んだ。 元々大人しく結婚するつもりは微塵もなかった。アデルの父上は全く取り合ってくれないため、結婚できない理由を探していたくらいだ。 面識の無いお嬢さんと一生添い遂げるなんて、到底無理な話である。 しかも、違法な行為を従者が平気で行う国は信用ならず、スウェナル王国を汚す奴は、決して許してはならない。兄上であっても例外は無い。アデルは強固たる信念を再確認した。 「取引をその場で取り押さえる。そうでもしないと兄上は自らの行いを認めないからな。恐らく、取引は晩餐会の最中だろう。人目を逸らす作戦が仇と出たな。コニス、引き続き監視を頼む。逐一報告してくれ」 「あ、あの……」 「なんだ。まだ何かあったか」 「このままだと、アデル様のご婚約が流れてしまう可能性があるかと。最悪の事態を想定されたほうがいいかと思います」 身体を鍛えることとアデルにしか興味が無く、一切異論を唱えずに仕えているコニスが『婚約』が流れてしまうと心配している。 アデルは大きな口を開けて豪快に笑った。 「心配するな。俺がこの婚約に乗り気でないことは、お前も知ってるであろう。どっちみち破談にする予定だった。今は兄上の不正を押さえることだけを考えろ」 「承知いたしました」 晩餐会が始まれば、簡単に席を外せない。主賓をもてなすため、自由な行動が限りなく制限される。 コニスからの合図があった際、すぐ動けるよう、アデルは婚約する王族の役に徹する。誰にも怪しまれないよう自我を殺して、できるだけ口角を上げた。 こうして慌ただしくしているうちに、翔太へ逢いに行く日課を忘れてしまっていた。 アドレナリンが出ているアデルの脳内には、癒しの存在である翔太が、すっかり鳴りを潜めていた。

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