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第13話運命の人5
久しぶりのリズ爺宅は懐かしさと安心感がある。
着いた頃には夕方で、疲れてきっていた翔太は早々とベッドへ入った。もしかしたら翔太があやしの森へ行くのではないかと、心配するリズ爺を宥めるのは至難の業であった。
しかしリズ爺も爺である。年齢には勝てず、夜半過ぎには熟睡していた。
ぱちり、と翔太の目が開く。
起き上がり簡単な外出準備をする。初めて来たときに着ていた白シャツを羽織った。
そして、居間でいびきをかいているリズ爺へ
感謝の意味を込めてお辞儀をした。
無事に青い花まで辿り着けばいいのだが、場所がイマイチ不明である。遭難した時のために、テーブルにあったサブレをポケットへ入れる。
静かな夜で良かった。ほっと胸を撫で下ろし翔太は靴を履いた。
外では、大きな満月が煌々と輝いていた。
暗い闇が広がる森へ、月明りと小さなランプを頼りに進む。ランプは『光の粉』を元に光る。粉はリズ爺宅からそれなりの量を失敬してきた。光の粉は生き物であり、量に限りがあるため、無駄遣いはできない。だから大切に使う。
一時間ほど歩くと、絶対入ってはいけない領域『あやしの森』へ突入する。
昼間でもジメジメと暗い一帯は、終わりが見当たらず、侵入者の全てを飲み込もうとする。
入った途端、たちまち辺りは鬱蒼と茂る針葉樹林で真っ暗になった。コウモリやフクロウといった夜を象徴する生き物も一切居なくなる。
月の明かりは遮断され、恐怖で進む者の侵入を拒もうとする。
帰ることを決めたら、心が楽になった。
アデルの心を確かめもせず、逃げる方法を選んだ翔太に悔いはない。
翔太は、ちゃんとした恋愛をしたことが無かった。片想いは、いつも片想いで終わる。十六という年齢のせいもあるが、恋愛経験は同世代に比べても少ない方だ。
だから、アデルという太陽のような獅子は、初心者には荷が重すぎた。
アデルの一挙手一投足に振り回され、医務室で待っている生活に疲れてしまった。追い打ちをかけて婚約者が登場したことで、翔太は自分をコントロールできなくなってしまう。
恋愛には自制心が必要である。
誰も教えてくれないから、学ぶしかない。
(あれ……なんかおかしい……)
異変に気が付いたのは、あやしの森を更に一時間進んだ頃だった。
今まで感じたことのないくらい身体が熱いのである。しかも人肌が恋しくてしょうがない。誰でもいいから、抱きしめてくれないかなと辺りを見回したが暗闇しか存在しない。
(熱い、熱い……誰か助けて……怖い)
実は遠巻きに野獣が翔太を監視していた。
久しぶりの獲物に野獣も目が離すことができない。
しかし、翔太が得体の知れない甘い匂いを発しているため、むやみに近づけなかった。
そのうちに、ふらふらと歩く翔太は熱により迷走を始める。何度も転けては起き上がり、その度に光の粉が飛び散る。
光の粉がスパークする様はまるで流れ星のようで、野獣はしばし見惚れていた。
やがて、翔太は自身の身体を包むように、倒れ込んでしまう。
ただただアデルを求めて翔太は意識を失った。
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