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第14話運命の人6

アデルは、キノと共に叫び声の主であるコニスの元へ向かう。城内は祝宴中のアクシデントで騒然となっていた。 人だかりの輪の中心には、コニスと相手国の従者がいる。コニスの血だらけの右頬は、切り付けられたことを物語っていた。 「コニスっ、大丈夫か」 「アデル様、こいつの不審な動きを発見して、声を掛けたら切りつけられました。でも例の方を現行犯では捕まえられなかった……申し訳ありません」 コニスが取り押さえている従者は肩で息をしている。床には血の付いた短剣が転がっていた。 傷ついてもなお、クロードを捕まえられなかったことを悔やんでいるあたり、兵士としてのプライドを感じる。 根っからの主従体質がもたらした賜物であった。 「とにかく手当をしなければ。晩餐会を速やかに終わらせるよう父上から指示が出るはずだ。キノ、コニスを頼む」 「承知しました」 「従者殿は、後でゆっくり話を伺おう。客人だろうと、我が部下を傷つける奴は許すことができない。牢へ連れて行け。頭を冷やすがいい」 キノがコニスの肩を抱き、医務室へ連れていく。すれ違った際、キノが真面目な顔をして訴えてきた。 「後は私達が収めますので、どうか、ショータの元へ行ってください」 「何てことを言うんだ。アデル様は城で指揮を取ってもらわねばならない」 「いや。私とお前でやれないことはないだろう。ここで引き止めたら、アデル様は一生後悔する。勿論、お前もアデル様に一生恨まれる」 「ええっ……そんな……アデル様に限ってそんなことはないはずだ」 「煩い。いい加減王子ばかりに頼るのを止めろ」 「…………」 キノとコニスは犬猿の仲であり同期でもある。仲は悪くても仕事は完璧だ。この二人なら留守を預けられると、アデルは決意した。 「キノ、コニス、すまない。明日の朝には帰る。それまで留守を頼んだ」 深々と一礼をするキノと、泣きそうなコニスを後に、アデルは走り出した。 アデルは瞬足なラプトルに飛び乗り、夜道を疾走した。 リズ爺の家はアデルが幼い頃、よく遊びに行った。近くには狩猟をするための別荘もある。夏の暑い時期の楽しみであり、幼い頃の記憶が蘇ってきそうになったが、今はそれどころではない。感傷に浸る暇がないのだ。 「爺、爺はいるか?」  不用心にリズ爺の家は扉が開いていた。失礼を承知で中へ入る。室内ではリズ爺がソファで横になり、いびきをかいて寝ていた。  更に隣の寝室へ入るも、そこはもぬけの殻だった。誰かが寝ていた形跡はある。 「リズ爺、起きてくれ。ショータはどこへいった」  ゆさゆさと爺を揺り起こす。最初はびくともしなかった瞼がアデルを捉えると、爺の意識が一気に覚めた。 「あ…………アデル様!!!何故ここに?」 「ショータがいないではないか」  ショータというキーワードに、リズ爺の瞳が動揺で揺れ始めた。 「……もしかしたら……あやしの森に行ったのかもしれない。危なっかしくて監視していたのに、ワシも寝てしまった。あああ、爺一生の不覚」 「あやしの森へ、何しに行ったのだ」 「青い花を探しに行ったのだと思います。あやしの森に咲く青い花を満月の夜に見つけると、己の望んだ世界へ行くことができるという、昔ばなしです。ショータは、元の世界に帰りたがっていた。なのに、ワシは留めることが出来なかった……」  全て原因を作ったのは自分である。こんなにも己へ怒りを感じたことはない。  涙を浮かべて謝るリズ爺に家で待っているように伝え、アデルはあやしの森へ向かった。

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