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第15話運命の人7
野獣は暫く翔太を観察していた。光の粉が翔太の周りを包んで光っている。翔太が倒れてから小一時間程経っており、そろそろ死んだかもしれないと側へ寄ってみた。
嗅いだことのない甘い匂いを発しながら、彼は生きていた。毛も耳も尾っぽも無い小さな生き物を、捕食対象ではないと野獣は判断した。匂いも臭すぎる。
「なあ、青い花って知らないかな」
いきなり話しかけられた野獣は飛び跳ねた。野獣は言葉が離せない。話の内容は辛うじて分かるものの、会話にはならない。
青い花、は知っていた。満月の夜に咲く、青い大輪の花が大好きだからだ。
野獣はとりあえず頷いてみた。
「知ってるの?俺をそこまで案内してくれないかな」
翔太はむくりと起き上がり、立とうとしたが、ふらついて姿勢を保てない。
「ははは。行けそうにないや。俺さ、元の世界に帰りたいの。青い花がそれを叶えてくれるって聞いたから、頼ろうと思って。でも無理みたい。俺を食べたいなら食べてもいいよ。ずっと見ていたでしょ」
ふるふると野獣は首を振った。とてもじゃないけど、毛無しは美味しそうに見えない。
「食べないの?確かに俺は不味いかも。その代わりこれをやるよ」
ポケットからサブレを出して、翔太は野獣へ手渡した。見たことのない塊を目の前に固まったが、果物のいい匂いがする。これなら食べられそうた。
「このまま俺は死ぬのかな。死ぬ前に一回でいいから、アデルに会いたかった。昨日会ったのに、全然足りないんだ。アデル……って、やっぱり女の子が好きなのかな。俺みたいな、骨と皮だけの男なんて魅力もないだろう。身分も足りないし、結局無理かあ。こんなところで死ぬなら、意地を張らずに好きって言っておけば良かった……」
翔太は泣きながら、アデルを思い浮かべる。ずくん、と下半身が疼き、身を胎児のように丸めた。
夢中になってサブレを食していた野獣が、人の気配に顔を上げる。
身を丸くして縮こまっている翔太と野獣の前に、輝く金色の獅子が立っていたのだ。
光の粉の所為ではなく、彼自身が輝いて見える。恰好の獲物であるが、纏っている覇気からして、野獣の手に負えそうになかった。口をあんぐり開けて驚く野獣を横目に、金色の獅子は簡単に翔太を抱きかかえた。
「ショータを保護してくれたのか。礼を言う」
野獣はこくこくと頷く。たぶん、この人が翔太の言うアデルだと悟った。
泣いてまで懇願した人が、迎えに来てくれたではないか。生きていてよかったねと、野獣はにっこりとした。
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