16 / 20

第16話運命の人8

あやしの森は入る者を選ぶ。一旦入ることを赦されると、目的地へ誘われるように道が繋がる。アデルは幼い頃から何度も体験していた。 だから、難なくと言えば嘘になるが、光の粉に囲まれた翔太を無事発見することが出来たのだ。 翔太の側に野獣がいるのを見て、アデルは身の毛がよだつ思いをする。野獣は言葉が通じない上、欲望に容赦が無い。常に腹を空かせて獲物を狙っている。 森に拒まれ、青い花に辿り着けなかった翔太でも、野獣には恵まれていたようだ。アデルは野獣に礼を言い、翔太と共にあやしの森を出た。 最初は素直にリズ爺宅へ戻ろうかと思った。 だが、翔太を見つけた時から、彼の発する甘い匂いで、どうにかなりそうなくらいアデルの興奮が止まらない。 このままだと、リズ爺に良からぬものを見せてしまいかねない。 考えあぐねたアデルは、近くに昔使っていた別荘があったことを思い出し、そこで自らを落ち着かせることにした。 別荘は、綺麗な状態で家主が戻るのを待っていた。二人は迷わず寝室へ向かう。 キングサイズより大きなベッドへ翔太を軽く投げる。小さな呻き声を上げて、翔太がアデルを呼んだ。 声にすら反応してしまいそうになる。アデルは、ありったけの理性を手繰り寄せて、翔太と向き合った。野生の部分が猛々しく己を駆り立ててくる。 「……アデル……アデル……」 「お前の身体に何があったんだ」 アデルは翔太の匂いに完全に酔っていた。吐き気がするくらい甘くて気怠い。だが、嫌いではない。 「わ、かんない……熱くて熱くて、もう耐えられない……」 「もしかして……ヒートか」 「は?ヒートって何だよ」 ヒートとは、発情期をぎゅっと収縮したようなもので、発作に近い。 獣人には、性が三種類ある。王族は皆、α性である。代々αだけ生まれるよう、婚姻する家柄が限定されている。 殆どがβ性だが、稀にΩと呼ばれる特殊な体質が存在する。それは、ヒートという発作を起こし、抗えない匂いでαを誘うのだと、キノから聞いたことがあった。 どうして異世界から来た翔太が、獣人にしか無いΩ性なのか、アデルは皆目見当もつかない。 現に翔太の出すフェロモンに負けそうである。 「……難しい顔してないで、こっち来て」 翔太が両手を広げて、アデルを求めた。 (もう……抑えるのは無理だ……) 本能の赴くまま、ふらふらとアデルが翔太の腕に収まった。小さな身体は信じられないくらい熱く、動悸が伝わってくる。 耳元で翔太が囁いた。 「毛がふわふわだ。アデル、俺を好きにしていいよ」 「駄目だ。お前を壊してしまう」 「痛かったらちゃんと言うから、だから。もう耐えられない……」 言い終わらないうちに、アデルは翔太の唇を奪った。吸い尽くすように、互いの舌を絡め合う。 アデルと同じく、翔太も限界だった。

ともだちにシェアしよう!