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第16話運命の人8
あやしの森は入る者を選ぶ。一旦入ることを赦されると、目的地へ誘われるように道が繋がる。アデルは幼い頃から何度も体験していた。
だから、難なくと言えば嘘になるが、光の粉に囲まれた翔太を無事発見することが出来たのだ。
翔太の側に野獣がいるのを見て、アデルは身の毛がよだつ思いをする。野獣は言葉が通じない上、欲望に容赦が無い。常に腹を空かせて獲物を狙っている。
森に拒まれ、青い花に辿り着けなかった翔太でも、野獣には恵まれていたようだ。アデルは野獣に礼を言い、翔太と共にあやしの森を出た。
最初は素直にリズ爺宅へ戻ろうかと思った。
だが、翔太を見つけた時から、彼の発する甘い匂いで、どうにかなりそうなくらいアデルの興奮が止まらない。
このままだと、リズ爺に良からぬものを見せてしまいかねない。
考えあぐねたアデルは、近くに昔使っていた別荘があったことを思い出し、そこで自らを落ち着かせることにした。
別荘は、綺麗な状態で家主が戻るのを待っていた。二人は迷わず寝室へ向かう。
キングサイズより大きなベッドへ翔太を軽く投げる。小さな呻き声を上げて、翔太がアデルを呼んだ。
声にすら反応してしまいそうになる。アデルは、ありったけの理性を手繰り寄せて、翔太と向き合った。野生の部分が猛々しく己を駆り立ててくる。
「……アデル……アデル……」
「お前の身体に何があったんだ」
アデルは翔太の匂いに完全に酔っていた。吐き気がするくらい甘くて気怠い。だが、嫌いではない。
「わ、かんない……熱くて熱くて、もう耐えられない……」
「もしかして……ヒートか」
「は?ヒートって何だよ」
ヒートとは、発情期をぎゅっと収縮したようなもので、発作に近い。
獣人には、性が三種類ある。王族は皆、α性である。代々αだけ生まれるよう、婚姻する家柄が限定されている。
殆どがβ性だが、稀にΩと呼ばれる特殊な体質が存在する。それは、ヒートという発作を起こし、抗えない匂いでαを誘うのだと、キノから聞いたことがあった。
どうして異世界から来た翔太が、獣人にしか無いΩ性なのか、アデルは皆目見当もつかない。
現に翔太の出すフェロモンに負けそうである。
「……難しい顔してないで、こっち来て」
翔太が両手を広げて、アデルを求めた。
(もう……抑えるのは無理だ……)
本能の赴くまま、ふらふらとアデルが翔太の腕に収まった。小さな身体は信じられないくらい熱く、動悸が伝わってくる。
耳元で翔太が囁いた。
「毛がふわふわだ。アデル、俺を好きにしていいよ」
「駄目だ。お前を壊してしまう」
「痛かったらちゃんと言うから、だから。もう耐えられない……」
言い終わらないうちに、アデルは翔太の唇を奪った。吸い尽くすように、互いの舌を絡め合う。
アデルと同じく、翔太も限界だった。
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