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第3話 愛念

下駄箱で靴を履いて、校門を出た。 帰りは、ゆっくりと坂道を下って行く。 メールの着信音がして確認すると、『下に着いた』と表示されていた。 坂道が終わる少し手前で視線を前に向けると、花びらの舞う向こう側に、車のドアに凭れて腕を組み、僕を見つめる蒼一朗がいた。 グレーの薄手のVネックニットに黒のチノパン姿。彼は背も高く整った顔をしている。 まるでモデルみたいだなーー。 そう思いながらゆっくりと近付く。 蒼一朗が、フッと表情を緩めて優しい手つきで僕の頬を撫で、助手席のドアを開けて車に乗るように促した。 中学を卒業してすぐに、この3LDKのマンションに移った。あの家が所有するマンションだから家賃はいらない。毎月、決まった額の生活費も振り込まれる。 それに、欲しい物は蒼一朗に言えば用意してくれるのだけど、いつも僕の自由に使える様にと、幾らかのお金を渡してくれている。 「学校はどうだった?」 向かい合って蒼一朗が作った夕食を食べていると、僕の目を覗き込んで聞いてきた。 「別に。中学と変わらない。あ、でも、やたらと話し掛けてくる子がいたよ」 「へえ、どんな子?」 「明るくてよく喋る。たまに僕と目が合うと赤くなるんだ」 「ふ〜ん、なるほどね……」 蒼一朗の意味深な言い方に「何?」と返すと 「いや、仲良く出来るといいな」と目を細める。 「僕は一人でいい」 そう呟く僕に、蒼一朗は何も言わず腰を浮かして手を伸ばし、僕の頭を撫でた。 「片付けしておくから風呂に入っておいで」と言われ、「うん」と返事をして、部屋に着替えを取りに行ってから風呂場へ向かった。 お風呂の後、歯を磨いてキッチンへ行き、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して一口飲んだ。そしてペットボトルを持ったまま部屋へ行く。 ーー今日は久しぶりに他人と喋って疲れたから眠れるかな……。 そんなことを思ってベッドに潜ったところで、ドアが開いて蒼一朗が顔を出した。 「燈、おやすみ。電気消すぞ」 「うん、おやすみ」 パチンと電気を消してドアを閉める。蒼一朗が、隣の部屋へ行く足音を聞きながら、僕はゆっくりと目を閉じた。

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