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第5話 愛念
「燈!大丈夫か?」
「はぁっ…」
僕は、大きく息を吐き出して目を開けた。ドクンドクンと心臓が脈打ち、汗をびっしりとかいている。
涙がぽろぽろと流れ、僕の耳の中を熱く濡らす。
蒼一朗がベッドに腰掛けて、汗で顔に張り付いた髪の毛を何度も何度も梳いてくれる。
「またいつもの夢か…?」
「ん……蒼…」
僕は、蒼一朗に震える手を伸ばした。
蒼一朗は僕の腕を掴んで起こすと、しっかりと抱き締めてくれた。彼の胸に顔を埋めて匂いを吸い込む。
震える指で蒼一朗の服を掴んで、まだ涙が溜まっている目で見上げて口をそっと開く。
ゆっくりと蒼一朗の顔が近付いて、そっと唇が重なった。
何度か啄ばんだ後に、ゆるく開いた唇に舌が挿し込まれる。
「…ん、んぅ」と、甘い声が僕の鼻から漏れた。蒼一朗の舌が、僕の口内を舐め舌を絡める。静かな部屋に、水音と二人の吐息だけが響く。
僕は頰を熱くして蒼一朗の肩に縋り付いた。
「ふぁ…んっ…」
さらに僕の舌を強く吸って、角度を変えながら何度も互いの唇を貪り合う。
暫くして蒼一朗の唇が離れ、僕の目尻に唇を寄せて涙を吸った。そして額に口付けると、もう一度僕を強く抱き締め、耳元で「俺がいつも傍にいる。大丈夫だ」と囁いた。
蒼一朗は、震えが収まった僕を抱いたまま横になり、布団を被せて背中をリズムよく優しく叩く。
その心地良さに目を閉じて、再びゆっくりと眠りについた。
セミダブルのベッドが沈んで軋む音に目が覚めた。
「んぅ」と目を擦っていると、大きな手が頭をふわりと撫でる。
「悪い、起こしたか?まだ寝てていいぞ。」
遮光カーテンの隙間から光が射し込んでいる。
上半身を起こした蒼一朗が、僕の頭を撫でていた手を滑らせて頬を撫でた。そのまま親指で目の下を優しくなぞる。
「ん…蒼おはよう…。僕も起きる」と言うと
「じゃあ顔洗ってからリビングにおいで」ともう一度、頭を撫でて部屋を出て行った。
彼の出て行ったドアを眺めながらぼんやりと思う。
昔から僕が眠れない時は、いつも抱き締めて傍にいてくれる。泣いて震えている時は、いつも僕にキスをするんだーー。
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