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第23話 苦悶
授業が始まるギリギリの時間に教室に入った。大輝が僕の方を見てきたけど、気付かないふりをして席に着いた。
僕は両手を組んでその上に額を乗せ、下を向いて小さく溜息を吐く。
先生が僕の事をどこまで知ってるのか。あの家での僕を知ってる人は、限られてるとは思うけど…。
成瀬の社員なんだろうけど「仕えてる」って言ってた。たぶん、表立っては出来ない仕事もする人員なんだろう。あの人の直属の部下なのかもしれない。
あの人の考えてる事はやっぱりわからない…。僕の事が憎いのなら、早く殺してくれていいのに…。
先生がどこまで知ってるか分からないけど、別に大輝に知られてもいいんだ。それで大輝が僕から離れるなら、その方がきっといい…。
その日の昼休み、大輝から逃げるように僕は保健室へ行った。
先生は驚いた顔をしていたけど、すぐに僕の肩を抱いてベッドに座らせ、自身も隣に座る。
「どうしたの?金曜日まで待てなくなった?」
「そんなんじゃないです。教室にいたくないだけ」
「ふーん?まあ俺は、君が…燈が来てくれて嬉しいよ」
僕は少し顔をしかめて先生を見る。
「名前……」
「別に呼ぶぐらいいだろ?それより燈は俺の名前知ってる?」
僕が首を振るとクスッと笑って、僕の唇を指でなぞる。
「俺は澤井晃太(さわいこうた)。覚えて」
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