澤井先生は、僕の唇から指を離すと「昼ごはん食べた？」と聞いてきた。僕が「いらない…」と言うと、「ちょっと待ってて」と保健室を出て行った。 開いた窓から心地良い風が入ってきてカーテンを揺らす。外で何かのスポーツを楽しんでる大きな声が聞こえる。 ーーあんな風に楽しそうな声をあげて走り回ったのはいつの頃だっただろう。 そんな事を目を閉じてぼんやり考えていると、澤井先生がビニール袋を提げて戻って来た。 「暑くなかった？」 窓を閉めてエアコンのスイッチを入れる。 「風…気持ちよかったのに…」 「でも前に熱中症で気分悪くなっただろ？気をつけないと。はい、これ飲んで。好きなの選んで」 先生が、僕に冷えたミルクティーの缶を渡してきた。袋の中には何個かのパンが入っていたけど、食欲がなかったからパンは受け取らなかった。 「夏はいつもこんな感じ？」 先生は仕方ないと言う風に小さく息を吐いて、パンの入った袋を机の上に置く。机の前の椅子に座って缶コーヒーを開け、一口飲んで聞いてきた。 「うん…夏は嫌いだ……」 ミルクティーの缶に付いた水滴が、僕の手を伝ってポトンと床に落ちた。 「そう…。ここにはいつでも来ていいよ」 先生はそう言って、パンを一つ取り出して食べ始めた。