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第32話 僕の望み

「かあさん…の、こと…?」 僕は荒い息を落ち着かせながら尋ねる。 先生がビクリと大きく肩を震わせて、勢いよく身体を起こした。 「な、んのこ…「ひかるって…母さんのこと?」 僕が被せるように言うと、先生は、苦しげな顔をして視線を逸らせた。 「先生…母さんを知ってるの?どうして名前を呼んだの?ねえ…?」 僕がしつこく尋ねると、先生は、大きく息を吐いた。 「わかった……。ちょっと待って」 そう言って、僕の中から性器を引き抜いた。 自分の服を整えた後、僕の身体を濡らしたタオルで拭いて、服を着させてくれた。 ベッドに座る僕の隣に先生も座り、しばらく僕の顔をじっと見つめてから話し出した。 「燈の両親は、ずっと住む所を転々としてただろ?でもある年からは動かなくなった。だから成瀬が二人の居場所を見つけ出して…。俺は、成瀬の家に戻るように説得しに行かされてたんだ」 小さい頃にいろんな場所で暮らしていたのは覚えてる。 住む場所を変えなくなったのは、僕が小学校に入ったからだ。 「俺は成瀬の会社に入ったばかりでね。雑用ばかりやらされていた。それで、燈の両親の所へ先輩に付いて行くように言われて…。数ヶ月は通ってたと思う」 「二人の所に初めて行った時、光さんしか家に居なかった。一目見て、俺の頭の中は光さんでいっぱいになった…」 「とても綺麗だった。…今の燈はよく似てるよ…」 また甘い目をする。でもそれは、僕を通して母さんを見てたからなんだ……。 「俺は説得に通う度に、光さんに惹かれていった。そしてだんだんとその身体に触れたい欲求が膨らんでいった…」 「父さんは…?」 「燈の父親には数回会ったけど、気弱な感じで、いつも光さんの後ろでオドオドしてたよ」 そう、父さんは優しいけど心が弱い人だった…。

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