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第34話 僕の望み
僕は見てしまったんだ。
並んで横たわる二人、フローリングに広がる血溜まり。
血溜まりに座り込んで二人を揺さぶっているから、僕の手が、足が、赤く染まってーー。
目に映るすべてが、真っ赤になってーー。
その光景をはっきりと思い出した瞬間、目を大きく見開いて、ひゅっ、と息を吸い込んだ。 心臓が煩く鳴り響く。僕はガタガタと震え出し、涙が次から次へと溢れだした。
そして、僕はあの人しか見えなくなる。
「蒼…そう、どこ?そう、早く来てよ…そう…っ」
僕は辺りをキョロキョロ見渡して、蒼一朗の姿を探す。
「燈っ⁉︎どうした?」
誰かが僕の名前を呼んで抱きしめてくるけど、僕の聞きたい声じゃない。僕の欲しい腕じゃない。
「そうっ…。どこなの?僕を抱きしめてよ…っ、う…ふぅ…っ」
身体の震えも涙も止まらなくてもうぐちゃぐちゃだ。
僕を抱きしめる誰かが言ったんだ。
「ここにはいないっ。いないんだっ!」
「蒼…いないの…?」
僕は涙でぼやける視界で誰かを見る。
「ああ、いない」
「ふぅ…っ」
一つ、小さな息を吐く。瞬きをすると、涙がポロリポロリと零れ落ちた。
だんだんと僕の涙が止まっていって、震えが小さくなっていく。
蒼、いないんだ……いない……いない……そっか…。 だったら、もう、いいよね……?
僕が落ち着いて静かになったからか、誰かが「水、飲むか?」と言って僕から離れた。
僕は顔を上げて誰かの背中を見て、ぐるりと周りに目を向ける。机の上に目が止まり、立ち上がって近付く。
誰かが立ち上がった僕に気付いて「どうした?」と聞いてきた。
僕は真っ直ぐ机の前まで来て、ペン立てに入ってるカッターナイフを手に取る。
ギチギチと音を立てて、刃を目一杯出す。
その音に気付いた誰かが「あかりっ‼︎」と叫んで、何かを放り投げた。
僕は両手でカッターナイフを掴んで、刃を首の横に当てる。
誰かが僕に向かって手を伸ばしてくる。
その手が僕に触れるより早く、
僕は強く両手を引いた。
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