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第40話 幸せの記憶
「あかり……燈…」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。
蒼……?大輝……?…違う、あの声は…母さんだ。
父さんと母さんと僕の三人で、幸せに暮らしてたあの頃の、明るくて優しい声ーー。
僕が物心ついた頃には、父さんと母さんと僕の三人で、狭いアパートで暮らしていた。
住む所が狭くても、優しい父さんと明るくて綺麗な母さんがいて、とても幸せだった。
でも、同じ土地に長く住むことはなくて、いろんな所を転々としていた。
一度、僕が仲良くなった子と離れるのが寂しくて、どうしてずっとここに住んでちゃ駄目なのか聞いた事がある。
そうしたら母さんが、「父さんのお父さん、つまり燈のお祖父さんが私達が一緒になる事を怒ってるの。だから二人で逃げて来たの。もし見つかると連れ戻されて、みんな離れ離れにされちゃうのよ」と、悲しそうな顔で言った。
僕は、父さん母さんと離れるなんて絶対嫌だったから、寂しいのは我慢したんだ。
新しい土地に行くと、父さんは塾の先生をして、母さんは診療所で働いた。二人共、資格を持ってるから、と言ってたと思う。
でも母さんは、僕が幼稚園に行ってる間に少しだけ働いて、時間になると必ず迎えに来てくれた。
幼稚園の先生や友達が、「お母さん、綺麗だね」って言ってくれるのがとても嬉しかった。 本当に自慢の母さんだった。
父さんも、優しげな綺麗な顔をしていて、よく僕達三人は「似てるね」と言われた。
「私達、似た者夫婦なのよ」
母さんは、そう言って笑ってた。でも、一瞬暗い目をする時があって、どうしたんだろうと不思議に思っていた。でもすぐに、いつもの明るい母さんに戻るから安心してたんだ。
僕達三人は、いろんな土地で暮らしたけど、一番気に入ってたのは海に近い所に住んだ時だ。
確か、夏から冬になるまで其処で暮らしてたと思う。
夏は海で泳いで、秋は波に追いかけられてきゃーきゃーと騒いで、冬は寒いと震えながら綺麗な貝殻を拾い集めた。
本当に、三人で暮らした日々に辛い思い出なんて一つもない。
本当に、僕は幸せだったんだ。
ずっと、こんな毎日が続くと信じていた。
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