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第41話 幸せの記憶

僕は小学生になった。 父さんと母さんは、学校を転々と変わるのは可哀想だからと、ずっと同じ土地で暮らす事を決めた。 「それに父さんのお父さんも、もう連れ戻すのを諦めたかもしれないし、もし、訪ねて来ても、ちゃんと話して分かってもらおう」 二人が笑ってそう言ってたから、僕も大丈夫だと思っていた。 小学校は楽しかった。もう離れる心配はないから、僕はたくさん友達を作った。 毎日、学校から帰ると、ランドセルを置いてすぐに遊びに行った。公園でサッカーをしたり鬼ごっこをしたり。家に友達を呼んでゲームをしたり。 ーーごく普通に平凡に毎日を過ごせることは、とても恵まれた幸せなことだ。 もう手にすることのない幸せな毎日を思い出すと、胸がギシギシと痛むんだ。ーー 夏休みには、父さんと母さんと僕で夏祭りに行った。僕の大好きなりんご飴を買ってもらって、金魚すくいもした。父さんも僕も、ぽいをすぐに破ってしまって、それを母さんが笑って見てた。 店のおじさんにおまけで貰った金魚は、しばらくはうちで飼ってたけど、その後はどうしたんだっけ……。 夏祭りの最後の花火を、父さんと母さんに手を繋がれて見上げた。胸の奥に、どん!と響く音が震えて、幸せが身体中に染み込んでいくようだった。 クリスマスには毎年、小さめの丸いケーキが二つ並んだ。 なぜなら僕の誕生日が12月25日だから。クリスマスと一緒にするんじゃなくて、ちゃんと分けて祝ってくれていた。だからクリスマスは、他の人よりも、僕は楽しみが二倍だった。 そして、いつも二人が僕に言ってくれていた言葉。 「燈、私達の間に生まれて来てくれてありがとう。燈は私達の宝物だよ」 ってーー。

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