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第42話 不穏
幸せな日々は過ぎるのが早くて、僕は二年生になった。
そして平凡な毎日が、少しずつ壊れ始めていく。
四月の暖かいある日曜日に、この頃住んでいた平屋の小さな家に誰かが訪ねて来た。
母さんが出て話してたんだけど、すぐにリビングに戻って来た。そして僕に隣の部屋へ行くようにと言って、また玄関に戻っていった。
僕は部屋に行く前にそっと玄関を覗くと、スーツを着た男の人が二人立っていた。その二人の姿を見てると、得体の知れない不安が胸の中に広がって恐くなり、そっと隣の部屋に行って扉を閉め、膝を抱えて座り込んだ。
二人の男の人がリビングに入って来る足音がして、少しして低く通る声が聞こえてきた。
「光さんにはこの前来た時に言いましたね。陽介さん、私は会長の命令で、あなた達を説得しに来ました。家を出てから約八年、もう充分じゃないですか?」
しばらく服の擦れる音しか聞こえなかったけど、母さんが静かに言った。
「私達はこれからもずっと一緒に暮らしていきます。お父さんには、私達の事はもういない者として、放っておいて下さいと伝えてもらえませんか?」
「そう簡単に納得出来るのであれば、八年もあなた達を捜したりしません。会長はあなた達を決して許してません。家に戻って成瀬の為に尽力するべきです。それに…」
男の人が一つ、小さく息を吐いて続ける。
「あなた達の間には子供がいる。この事に関して会長は、とてもお怒りになっています」
父さんと母さんの息を呑む音が聞こえた。
あまり話の内容は分からなかったけど、なんとなく僕のお祖父さんという人は、この男の人達を部下に持つぐらい偉い人で、僕の事を良く思っていないと感じた。
「…すぐには返事は出来ません。今日は帰ってもらえませんか……」
母さんの声が聞こえて、二人の男の人が「ではまた…」と言って、玄関の方へ向かう足音が聞こえた。
どうしよう…お祖父さんに見つかってしまった……僕達、離れ離れにされちゃうの?
男の人達を見た時に感じた不安が、僕の胸を押し潰して苦しくなる。
僕は、額を抱えた膝につけて、目を瞑った。
静かに扉が開いて、母さんが入ってきた。そして僕をそっと抱きしめる。
「燈…大丈夫よ…大丈夫…」
そう呟く母さんの声が、少しだけ震えていた。
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