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第43話 不穏

それからも時々、あの二人の男の人が家を訪ねて来た。 もしかしたら僕と父さんが、学校や仕事に行ってる間にも来てたのかもしれない。 だってあんなに明るかった母さんが、だんだんと笑わなくなっていった。口数も少なくなって、いつも何かを考え込んでるようだった。 僕は、会った事もないお祖父さんだけど、母さんを苦しめるから、意地悪な人だと思った。 夜中にふと目が覚めると、いつも一緒に寝ている父さんと母さんの姿が見えない時があった。不安に思ってると、扉の隙間から光が漏れているのに気付いて、二人の静かな話し声が聞こえてきた。 「光…どうしよう…。お父さんは絶対に許してくれない…。やっぱり成瀬の家に戻らないと駄目かな……」 父さんが弱々しく呟く。 「陽ちゃん何言ってるの。燈が出来て、あの家を出る時に決めたじゃない。私達は絶対に離れないって。ずっと一緒にいるって。お父さんには悪いと思うけど…仕方のないことだもの……」 母さんの声は最後の方は掠れて聞こえなかった。 お祖父さんは、ずっと諦めないのかな。そのうち無理矢理父さんと母さんを連れて行ったりするのかな。 僕は二人の声が聞こえないように、布団を頭から被ってぎゅっと目を閉じた。 この年の夏休みは、僕は友達の誘いを断ってずっと家にいるようにした。 相変わらず、お祖父さんの部下だというあの男の人達が、家を訪ねて来ていた。あの人達が来るようになってから、母さんは、仕事を辞めて家に籠るようになってしまった。 僕は心配だから、夏休みの間はずっと母さんの傍にいてあげようと思ったんだ。 あの男の人達が来ると、母さんは家には入れずに、玄関で少しだけ話しをした。 僕はリビングにいたんだけど、微かに「今戻ってくれば悪いようには…」とか、「陽介さんとは離れて…」とか聞こえてきた。母さんは何も答えてないようだった。 男の人達が帰ると、母さんはリビングに戻って来て、いつも僕を強く抱きしめた。僕も大丈夫だよ、の意味を込めて、母さんの背中に回した腕に力を込めた。 僕がもう少し大きければ、ちゃんと守ってあげれるのに…。 そう思うと悲しくなってきて、涙が溢れないように、母さんの肩に強く顔を押し付けた。 母さんの傍で過ごした夏休みが終わって、学校が始まった。 僕は、母さんを一人にするのがとても心配だった。でも、その日は父さんが、 「今日は少しだけ仕事に行ってすぐ帰ってくる。燈も午前中だけだし、帰って来たら三人で出掛けようか」って言ったんだ。 「わかったっ。急いで帰って来る!行ってきまーす!」 僕は、元気に挨拶をして出て行った。家を出る時に振り返ると、父さんと母さんが笑って手を振ってくれていた。 久しぶりに見る母さんの笑顔に、僕も笑って二人に大きく手を振り返した。

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