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第44話 不穏

僕は帰りの会が終わると、急いでランドセルを背負って教室を飛び出そうとした。その時、後ろから友達が「燈、今日は遊べる?」と声をかけてくれたけど、今日だけは駄目だ。 「ごめんね。帰ったら父さん母さんと出掛けるんだ。また明日ね」 僕が笑顔でそう言うと、友達も笑って「わかった。また明日な」と手を振ってくれた。僕も手を振って廊下を早歩きで急ぐ。 どこに行くのかな。僕、久しぶりに海を見に行きたいなーー。 そんな事を考えながら下駄箱で靴を履き替えると、僕は勢いよく走り出した。 ずいぶんと早く家に着いた。はあはあと息を切らせて汗を拭いながら、玄関のドアを開ける。僕が帰る時間に、いつも鍵を開けておいてくれるんだ。 「ただいまー!」 大きな声で呼びかける。でも家の中はとても静かで物音一つ聞こえなかった。蝉の鳴き声だけがうるさく響いていた。 あれ?父さんまだ帰ってないの?母さんもいないのかな?でも鍵開いてるし……。 もう一度、さっきより大きな声で呼んでみた。 「父さん母さんただいまー!いないの?」 やっぱり返事がなかった。 僕は、どこ行ったんだろう…と少し心配しながらリビングに入ると、父さんと母さんがリビングの床に並んで寝転んでいた。 なんだ…二人でお昼寝してたんだ。 そう思ってほっとした。 でも、早く出掛けたいし僕が帰って来た事を教えてあげようと二人の傍に寄る。二人の頭の方に座って肩に手を置いた時、何かおかしい感じがした。 僕の座ってる床が濡れていた。手で触ってみると、濃い赤色の絵の具を溶いたみたいだった。 僕はこれが何か聞こうと二人の肩を揺するけど、ピクリとも動かない。よく見ると、二人の身体の下から濃い赤色が広がっていた。 僕の頭の中では、本当はこの赤い水みたいなのが何なのか分かってたんだけど、認めてしまうのが恐かった。 だから僕は、二人が早く目を覚ますようにと祈りながら、肩を揺すり続けた。 この時の僕には、蝉の鳴き声も周りの景色もすべて消えていた。 ただ二人の姿と赤い色だけが目に映っていた。

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