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第45話 幸せの消失

どれくらいそうしてただろう。 ふいに肩を掴まれて、僕はゆっくりと振り返った。虚ろな僕の目に、二人のスーツを着た男の人が映った。 一人は、僕の家に度々来てた人だった。もう一人は、家に来てたもう一人と同じぐらい若くて背の高い、初めて見る人だった。 「君…燈くんだったね。これはどういう事かな?わかる?君は大丈夫なのか?」 いつも来てた男の人が何か言ってきたけど、僕は考えることも身体を動かすことも止まってしまって、ただぼんやりと座っていた。 男の人は、父さんと母さんを見た後に、 「もう、駄目だろう…。会長と澤井に電話を入れてくる。巽はこの子を見ててやってくれ」と言って、玄関へ歩いて行った。 僕の傍にいたもう一人の男の人が、僕の脇に手を入れてソファーに座らせる。 「手も足も洗わないとな…。もっと早く来てやればよかったな…ごめんな」 その男の人は痛そうな顔をして、何度も僕の頭を優しく撫でてくれた。僕はただぼんやりと、彼のネクタイを眺めていた。 それからの事はあまり覚えていない。 気がつくと広い家の和室の一室にいた。 考えることも身体を動かすことも止まってしまった僕には、あれからどれくらいの時間が過ぎたのかもわからなかった。 僕の頭を撫でてくれた男の人がずっと傍にいて、僕の身の回りの世話をしてくれていた。 僕がご飯を食べないから、少しずつ口に運んで食べさてくれた。 お風呂に僕を連れていって、身体をそっと洗ってくれた。 身体を拭いて髪の毛を乾かしてくれた。 僕を長い腕で包んで一緒に寝てくれた。 彼のおかげで、僕の止まってしまった身体と心が、少しずつ動き始めようとしていた。

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