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第47話 拒絶

蒼一朗は、僕の涙が止まるまでずっと抱きしめてくれた。彼の腕の中が暖かくて、少しうとうとしていたら、部屋に近付いて来る複数の足音が聞こえてきた。 僕の肩がビクリと跳ねたのを宥めるように、背中をポンポンと叩いて彼の手が離れた。 足音が止まり、障子が左右に開かれる。 真ん中に、黒っぽいスーツを着た初老の男の人が立っていた。どことなく父さんに似た顔なんだけど、父さんのような優しい感じは全くなく、逆にとても怖いと感じた。 その人は部屋には入らずに、廊下から僕の顔をじっと見つめる。その冷たい目が怖くて、僕は隣に座る蒼一朗のシャツを、ぎゅっと掴んだ。 「おまえが陽介と光の子供か」 聞いてくる声が氷のように冷たい。 「あいつらは勝手に家を出て行って、勝手に死んだ。しかも、おまえのような汚らわしい子供まで作って!」 彼の鋭い大きな声に、心臓が震え出す。 「おまえは知らなかったみたいだが、よく聞いておけ。おまえの父親と母親は、実の兄妹だ。実の兄妹で交わって家を飛び出したあげく、おまえを生んだのだ。本来ならおまえは生まれて来てはいけない存在だ。そんな邪魔にしかならんおまえを残して、あいつらは死んだんだ!」 心臓の動悸の音が煩く鳴り響く。 たぶんこの人が、僕のお祖父さんなんだろう。彼の怒りに満ちた言葉が、鋭い刃となって僕の心を突き刺した。 「俺はおまえなどいらない。だが陽介の籍に入っているから放り出す訳にもいかない。それにおまえは光にそっくりの顔だ。いずれ、あいつらの代わりに成瀬の為に働いてもらうぞ。それまではここに置いてやる。この部屋は成瀬の屋敷の端にあるから俺に会う事もないだろうが、絶対に俺の前にその姿を見せるな!」 最後に僕を睨んで、部屋から離れて行った。彼に付いていた人達が障子を閉めて遠ざかる足音が聞こえた。 今、僕は何を言われたのだろう…。 お祖父さんの言葉に僕の心がズタズタに切り裂かれた。 僕はゆっくりと彼の言葉を思い出す。 …父さんと母さんが兄妹…。兄妹なのにお互い好きになって僕を生んだ…。兄妹じゃ結婚出来ないんだよ…父さん母さん、駄目だよ…。 でも二人が兄妹だという事に驚いたけど、嫌だとは思わなかった。だってやっぱり僕には、大好きな二人だったから…。 その後の僕に向けられた憎悪の言葉。 おまえは汚らわしい。 おまえは生まれて来てはいけない。 おまえは邪魔にしかならない。 おまえはいらない。 僕の全身が一気に震え上がる。 僕の存在が、全否定されてしまった。
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