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第50話 暗雲

僕が成瀬家の離れで暮らし始めてから二年半が過ぎた。 僕は五年生になり、相変わらず離れと学校を往復するだけの毎日を過ごしていた。 蒼一朗は、僕が学校の間は祖父の会社に行ってるみたいだった。でも学校が終わる頃には、必ず近くまで迎えに来てくれた。 屋敷に着くと、裏門から中に入って人目につかないうちに離れへと入る。 時々廊下を歩く祖父を見かける事があって、僕は恐怖で震える身体を無理に動かして物陰に隠れていた。 ある日学校を出ると、蒼一朗ではなく見た事のある祖父の部下が僕を待っていた。 彼は僕に車に乗るように促す。 「蒼…巽さんはどうしたんですか?」 僕は訝しげに尋ねる。 「巽は仕事だ。それに今日は君を別邸に連れて行くように会長に言われている。早く乗りなさい」 祖父の指図だと言われて僕はビクリと震える。 僕に断れるわけもなく、仕方なく車に乗った。 車の後部座席に座り窓の外を眺めてると、バックミラー越しにチラチラと視線を感じた。 祖父の部下の彼が何故僕を気にするのか疑問に思ったけど、僕は別邸で何があるんだろう、とその事に気を取られていた。 三十分程走った所に別邸があった。 屋敷よりこじんまりとしてるけど、普通の家よりはかなり広めの敷地に綺麗な日本家屋が建っていた。 敷地内に車が止まり、荷物を車の中に置いたまま降りた。部下の人に玄関まで案内される。 「中へ入って。俺はここまでだから。二時間したら迎えに来る」 玄関の引戸を開けて僕の背中を押し中へ入れた後、引戸を閉めて部下の人は帰って行った。 僕は一人残されて、困惑してしまう。 玄関で立ち尽くしていると、玄関を上がってすぐ横の部屋から「入って来なさい」と低い声が聞こえた。 僕は緊張しながら靴を脱いで玄関を上がった。そして部屋の扉をゆっくりと引いていく。 部屋は十畳ほどの和室で、床の間近くに初めて見る男の人が座っていた。

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