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第54話 記憶上書き

次の日、学校の近くに迎えに来た蒼一朗は、とても険しい顔をしていた。僕に怒ってるのではないみたいだけど、すごくピリピリしている。部屋に帰ってからは、今度は苦しそうに見えた。 「蒼…どうしたの?」 僕が尋ねると、苦しそうな表情のまま僕の頭を引き寄せ、自分の胸に抱え込んだ。 「燈……ごめんな…」 蒼一朗が、何を謝って何に苦しんでるのかはよくわからないけど、何となく僕を思っての事なんだろうと思った。 僕は顔と腕を上げて背伸びをしながら、いつも蒼一朗がしてくれるみたいに、彼の頭を撫でた。 僕は未だに、あの悪夢を見ては泣いて起きる。今までは蒼一朗が、泣いて震える僕を抱きしめて背中を撫でてくれていた。だけど、別邸での事があってからは、蒼一朗は僕を抱きしめて、唇を吸ってくるようになった。何度も啄んでから、そっと舌を絡めてくる。とろりと蕩けるような気持ち良さに不思議と落ち着いて、僕の方からも自然と舌を伸ばしていた。 唇を合わせた後に、蒼一朗の腕の中で彼の匂いに包まれていると、ゆっくりと瞼が落ちて深く穏やかに眠れた。 あれから数ヶ月過ぎて夏になり、もう別邸には行かなくていいのかも…と思い始めていた頃に、また学校の外で、祖父の部下の男が待っていた。 僕の心臓がドクンと跳ねて、思わず後退りする。 「またお呼びだそうだ。暑いから早く乗って」 運転手の男が、車の後部座席のドアを開けて、太陽の眩しさに目を眇めながら、僕を車の中へ押しやった。 前の事を思い出して逃げたくなったけど、僕に断る選択肢はないのだろう。そういえば、僕が成瀬の屋敷に来た頃に祖父が言ってた事を思い出した。 ーーいずれ、あいつらの代わりに成瀬の為に働いてもらうぞーー あれは、今から僕がされる事を言ってたのかな…。僕はそれぐらいの価値しかないのかな…。もしかすると、祖父からしたらそんな価値も無いのかもしれない……。 僕は、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。 今日は何をされるのだろう…。この前よりももっと嫌な事かもしれない。そうしたら蒼は、また、僕の嫌な記憶を身体に残る感触を塗り替えてくれるかな…。 僕はどうせ逃げれはしないのだからと、小さく息を吐いて硬く目を閉じた。

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