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第56話 記憶の上書き II ※

僕は離れの部屋に戻ると、またトイレに駆け込んで、指を口の中に入れて胃の中の物を吐き出した。思ったより飲み込んでなかったのか、少しだけどろりとした物が出ただけだった。その後ふらふらとした足取りで洗面所へ行き、何度も歯を磨いて口をすすいだ。 なんだか疲れてしまって洗面所の鏡をぼんやり見ていると、部屋中をばたばたと走り回る音が聞こえてきた。足音がこっちに近付いて来て、ばんっと勢いよくドアが開いて蒼一朗が険しい顔をして入って来た。 僕は、虚ろな目をして蒼一朗に顔を向ける。 「燈…」 僕の名前を呼んで、蒼一朗が僕を抱きしめた。 「燈…今日、また……」 「…うん、行ったよ…」 僕の返事を聞いて、更に抱きしめる腕に力を入れる。 「な、に…された…?」 僕は、蒼一朗の股間にそっと手を当てた。 「これ…口に入れられた……まだ気持ち悪い…」 仕方のない事だと諦めがついていたはずなのに、悲しくなってきて僕の目から涙がぽろぽろと溢れた。 蒼一朗は、僕の髪の毛を優しく梳いて、 「燈…俺のを…舐めれるか?」 と聞いてきた。だから僕は、 「うん…たぶん、大丈夫……気持ち悪いの、早く消して…っ」 と、蒼一朗の胸に縋りながら懇願した。 蒼一朗は僕の肩を抱いて部屋へ連れて行き、畳にそっと押し倒した。 蒼一朗が僕の上に被さり、僕の額や瞼、頰とキスを落として深く唇を合わせてきた。 何度も唇で唇を挟んだ後に、ぺろりと舐められる。薄く口を開けると舌が深く入ってきた。僕の舌の根元からぬるりと絡めて強く吸い上げる。 「ふ…っ、んぅ…ん…っ」 唇から全身に痺れが広がっていく。僕は口の端から唾液を零しながら、近くにある蒼一朗の顔をぼんやりと見つめた。

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